主催: 日本理学療法士協会
会議名: 第53回日本理学療法学術大会 抄録集
開催日: 2018/07/16 - 2018/12/23
【はじめに、目的】運動肢位の違いにより,呼吸循環動態が異なることや脳の酸素化動態が異なることが明らかとなってきている.座位運動により認知課題成績が改善されることが明らかとなっているが,背臥位運動が認知課題成績に与える影響については明らかでない.本研究の目的は,背臥位エルゴメータ運動が運動後の認知機能へ与える影響を明らかにすることである.
【方法】対象は健常成人男性10名(20.7±0.4歳)とした.座位条件と背臥位条件の2条件とした.安静4分とウォーミングアップ4分後,事前に行った運動負荷試験により得られた最高酸素摂取量の50%強度で20分の自転車エルゴメータ運動を行った.また安静前および運動後に認知課題を用いて認知機能を評価した.認知課題にはストループ課題を用いた.また単純反応課題を行い,単純反応時間(simple reaction time: SRT)を測定した.単純反応課題はPC画面上に表示された赤い点に素早く反応するように指示した.ストループ課題は,PC画面の上段に色文字と下段に黒文字が表示される.上段の文字の色と下段の文字の意味が一致しているかを判断する.ストループ課題の反応時間を複雑反応時間(complexity reaction time: CRT)とした.認知処理速度をCRT平均値‐SRT平均値で算出した.統計処理は重複測定二元配置分散分析を用いた.事後検定には対応のあるt検定またはウィルコクソン符号付順位和検定を用いた.有意水準は5%とした.
【結果】SRTは有意な交互作用を認めた(p < 0.01).SRTは座位条件で運動前(288.5±17.1 ms)と比較し運動後(282.8±20.7 ms)で有意な変化はなく,背臥位条件で運動前(282.0±19.9 ms)と比較し運動後(296.3±27.5 ms)で有意に遅延した(p < 0.05).CRTは運動前後の時間要因に有意な主効果(p < 0.01)を認めた.両条件でCRTが運動前(座位: 761.0±117.4 ms, 背臥位: 743±104.4 ms)と比較し運動後(座位: 706±101.5 ms, 背臥位: 693.7±106.1 ms)に有意に短縮した(p < 0.01).認知処理速度は運動前後の時間要因に有意な主効果(p < 0.01)を認めた.両条件で認知処理速度が運動前(座位: 472.4±128.0 ms, 背臥位: 461.3±111.3 ms)と比較し運動後(座位: 423.7±114.2 ms, 背臥位: 397.3±115.2 ms)に有意に短縮した(p < 0.01).
【考察】
ストループ課題は認知的葛藤の生じる抑制課題であり,単純反応課題と比較し認知処理が必要となる.認知処理速度は両条件で運動後に有意に短縮した.背臥位の中強度運動により右前頭前野の酸素化ヘモグロビンが有意に増加することが報告されており,酸素化ヘモグロビンは皮質の神経活動を反映する.また右前頭前野は行動遂行や抑制機能に関与すると報告されている.これらのことから,背臥位運動により右前頭前野の神経活動が増加したことで運動後の認知処理速度が短縮したと考えられる.
【結論】背臥位運動は座位運動と同様に,運動後の急性効果として認知の処理速度を短縮させる.
【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言の趣旨に則り,研究目的,研究方法,研究内容,研究対象者にもたらされる利益および不利益,個人情報の保護,研究成果の公表,研究協力の任意性と撤回の自由,研究終了後の対応について,被験者に対する説明を書面と口頭にて丁寧に行い,質問に答える時間を十分に設けた.