主催: 日本理学療法士協会
会議名: 第53回日本理学療法学術大会 抄録集
開催日: 2018/07/16 - 2018/12/23
【はじめに、目的】
我々は、脳損傷モデル動物を作製し、トレッドミル走行等の運動が運動機能の回復に与える影響について研究している。その結果、トレッドミル走行負荷の違いにより運動機能の回復の程度が異なることを報告し、運動機能の回復のために適切な運動負荷量が存在することを示唆した。このことより、運動で生じる身体の反応を定量的に評価することは、運動機能の効果的な回復を促進する適切な運動負荷量を設定することにおいて重要であると考える。さらに、これまで我々の研究も含め多くの先行研究は、若いモデル動物を用いた研究であり、臨床知見を念頭に入れた場合、そのモデル動物を老年期で検証する必要性が生じる。よって本研究は、トレッドミル走行中の若年期(Y群)および壮年期に相当する加齢(O群)マウスに対して、漸増運動負荷に対する呼吸および代謝応答を定量的に評価し、両者の違いを検討した。
【方法】
本研究は、C57BL/6JJclマウス(各群9匹、Y群: 8-9週齢、27.8±0.8 g、O群:38-40週齢、47.5±1.5 g)を用いた。運動負荷で使用するトレッドミルチャンバーに、呼吸測定装置(呼吸回数、一回換気量、分時換気量)、代謝測定装置(VO2、VCO2、呼吸交換比:RER)をそれぞれ接続させ測定を行なった。それぞれの評価指標は、10秒ずつサンプリングし1分間の平均値として算出した。漸増運動負荷試験の方法は、1m/minから始め、1分毎に一定量の負荷を上げ、動物が走行できる限界時点まで測定を行った。得られた結果は、負荷量ごとに群間比較(unpaired T-test, p<0.05)を行った。
【結果】
最大運動速度は、Y群で42±2m/min、O群で26±2m/minであった。呼吸回数については、各運動負荷段階において両群に有意差はみられなかった。しかし、一回換気量および分時換気量はO群がY群のそれと比較し約30%有意に小さかった。代謝測定の結果、O群のVO2、VCO2は共にY群に比べ約40%有意に低値を示した。RERについては、20m/min以降でO群が有意に高値を示した。漸増運動負荷に伴う経時的な代謝の変化量を両群で比較したところ、運動開始から数分間は、Y群がO群と比較するとVO2、VCO2ともに有意な増加量を示した。一方、負荷量がさらに上がるにつれて逆にO群のVO2、VCO2がY群に比べ有意な増加量を示した。RERについては、O群で運動開始直後および運動の後半で有意な増加量が見られた。
【考察】
本研究は、マウスにおける漸増運動負荷によって生じる呼吸・代謝応答が加齢に伴い変化することを定量的に明らかにした。このことは、各週齢のモデルマウスに課す運動負荷量を定量的に評価することを可能とし、脳損傷後の適切な運動負荷量を明らかにすることができると示唆する。
【結論】
マウスの運動負荷中の呼吸代謝応答を定量的に示すことができた。さらに同負荷の運動を加齢マウスに課すことで、呼吸代謝応答が変化していることを明らかにした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は、昭和大学 動物実験委員会の承認を受けた後に実施した(承認番号:07032)。