主催: 日本理学療法士協会
会議名: 第53回日本理学療法学術大会 抄録集
開催日: 2018/07/16 - 2018/12/23
【はじめに、目的】我々の自己に対する認知は多様であり, その中の一つに自分の身体が自分のものであるといった身体所有感が挙げられる(Gallagher, 2000)。身体所有感は, 脳卒中の後遺症である半側身体失認に対するリハビリテーションにおいても注目されている。身体所有感の研究では, 近年, Rubber Hand Illusion(RHI)を用いたものが多い。RHIとは, 参加者の手を視覚的に遮断された状態で, 目の前のラバーハンドに時間的・空間的に同期した刺激を与えると, ラバーハンドに対し自身の手のような錯覚が生じる現象である(Botvinick 1998)。
本研究では, 身体所有感に関わる違和感を評価することを目的とし, 今回はその指標を探索するために, RHIが生じた際の脳は活動を検討した。
【方法】対象は, 右利きで健常の大学生14名(女性5人と男性9人, 平均年齢19.86±0.83歳)であった。実験肢位は椅座位とし, 高さはラバーハンド全体が見える位置に調節した。刺激は, 絵筆を用いてメトロノーム(1Hz)に合わせて示指に60秒間与えた。
計測は, 始めに開眼時と閉眼時の脳波を60秒間記録した。次に, 5条件をランダムな順序で行ない, これを2回繰り返した。5条件は, 錯覚が生じるとされる①RHI条件, 錯覚が生じないとされる刺激位置が違うものを2条件(②参加者の右手の掌側を刺激, ③参加者の左手を刺激), ④視覚のみの刺激と⑤触覚のみの刺激の条件とした。触刺激後, 錯覚強度を10段階で評価してもらい, Wilcoxonの符号順位検定を用いて統計処理をした。
脳波はキャップ型電極を用いて, Czを基準に国際基準に従い脳全体をカバーする典型的な21 部位から記録した。初めに EEGLabを用いて独立成分分析によりノイズを除去し, その後, マイクロステイト分析を行った。
【結果】内観報告で2回のRHI条件のうち錯視量1を報告した2名と, 刺激がなくても錯覚が強く続いた1名を分析から除外した。内観報告では, 5%水準で試行反復による有意差は得られなかったため, 平均値で各条件を比較した結果, 条件①と②, ④, ⑤に有意差が得られた(p<.005)。
マイクロステイト分析は脳電位マップを4クラスタで抽出した。条件①において, マップ遷移に着目すると, 左右の前頭部から対角の後頭部に電位が分布するマップ遷移が多くみられた。
【考察】内観報告で試行反復間に有意差がなかったことから, 回数による傾向は見られなかった。また, 条件間では条件①が有意に高かったことから, 実験操作の妥当性が認められた。条件①でのマイクロステイト分析結果は, 先行研究において身体所有感が前運動野領域で報告されているものと類似し, 運動前野を中心にしたネットワークが関係していることが示唆された。
【結論】本研究は身体所有感の脳活動をRHI錯覚により検討した。結果, マイクロステイト分析でマップ遷移における特徴が確認され, 前運動野のネットワークの関与を示唆した。こうした身体所有感の研究が, 幻肢や身体失認といった身体所有感に異常を示す症状に接近出来ると考えられる。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は広島国際大学の医療研究倫理審査の承認を得て実施された。