理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-4-4
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一般演題
下肢筋解離手術を施行した成人脳性麻痺者の機能的変化
-手術入院後、在宅期間を経て再度集中的理学療法を実施した症例-
佐藤 由布子
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抄録

【はじめに】

歩容改善・疼痛軽減目的に両下肢筋解離手術を施行した成人脳性麻痺者に対し術後理学療法(PT)実施後、在宅生活期間を経て再度PT目的入院を実施した結果、電車通勤可能な安定した歩行が得られたため報告する。

【症例紹介】

在胎30週、出生体重1246g、双胎第2子、痙直型両麻痺、就職を控えた21歳女性。手術入院は手術含め16週間、PT目的入院は4週間でいずれも週4回PTを実施し、手術入院とPT目的入院の間に在宅生活期間8週間を設けた。評価項目は10m歩行、Timed Up&Go Test、3分間歩行におけるPhysiological Cost Index(PCI)、関節可動域(ROM)、階段昇降、歩行満足度(スピード・安定性・耐久性)の調査を行った。評価は手術前、手術入院終了時、PT目的入院開始時、PT目的入院終了時に実施し、手術前は靴型装具、手術後は支柱付短下肢装具を使用して実施した。

【経過】

手術前から手術入院終了時はROM(°)右足関節背屈−10から5へ、PCI(beat/min)0.31から0.23へ向上、3分間歩行距離は143mから134mへ短縮、その他も全て低下した。手術後の階段昇降(9段)は手すりを要し、降段時間は5.1秒から12.81秒へ延長した。歩行満足度は安定性の満足度が向上、スピード・耐久性はあまり満足していないという回答であった。手術入院終了時からPT目的入院時ではROM右股関節伸展-5から-15へ、PCI0.23から0.26へ低下、その他は向上した。歩行スピードは手術前より向上したが階段昇降には手すりを要し、歩行満足度においても安定性・耐久性に変化がなかった。また長距離歩行時に股・足関節に疼痛を訴える事があった。PT目的入院では立位バランス及び歩容改善を目標に介入した結果、ROM右股関節伸展0、右足関節背屈15へ向上し、階段昇降は手すりを使用せず実施可能となった。その他の項目も向上し、インソールを挿入した市販靴の使用が可能となり疼痛も生じなくなった。

【考察】

大学卒業や就職を控え年齢を重ねても独歩で社会生活を送りたいとの希望から両下肢筋解離術及び術後PTを実施した。術後はROM拡大によって足底接地が可能となり、安定性向上、歩容改善に伴う歩行効率の改善が見られた。しかし一般的に筋解離術後は筋力が低下すると言われており、本症例においても術後の筋力低下や運動量の低下により実用的な歩行スピードや動作の切り替え、階段昇降能力の獲得には至らなかったと考える。在宅生活期間は日常生活に合わせた歩行量とスピードの獲得が可能だが、立脚期に体幹側屈や股関節屈曲による代償を強めた術前の歩容に戻りやすく、PCIやROM低下、疼痛を生じたと考える。PT目的入院では立位・歩行時における下肢から体幹の抗重力伸展活動や足底内での重心コントロールを促した事で、術後に得られた可動域を用いて新たな運動感覚を学習し、歩容の改善に繋がったと考える。機能的な歩行の獲得は市販靴の使用を可能にし、満足度からも新たな社会生活に対する安心や自信をも得られたと考える。

【倫理的配慮,説明と同意】

発表にあたり本人に趣旨と目的を説明し、発表に対する同意を得た。

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