主催: 日本理学療法士協会
会議名: 第53回日本理学療法学術大会 抄録集
開催日: 2018/07/16 - 2018/12/23
【はじめに】脳性麻痺児の短下肢装具(Ankle Foot Orthosis:以下AFO)を構成する素材には、金属(軽合金)、プラスチック、カーボン樹脂等がある。脳性麻痺児に対する短下肢装具には金属支柱が多く用いられているが、近年、カーボン支柱のAFOが脳性麻痺児に使用されるようになり、歩行距離の延長や歩行効率の向上が報告されている。しかし同一の短下肢装具靴型における金属支柱とカーボン支柱を比較した研究は見当たらない。今回、痙直型両麻痺児一症例を対象に金属支柱AFO(以下金属AFO)とカーボン支柱AFO(以下カーボンAFO)が歩行と立位バランスに与える影響を比較検討したので報告する。
【方法】対象は痙直型脳性麻痺両麻痺8歳男児(GMFCSレベルII)。5歳まで金属AFOを使用し、6歳よりカーボンAFOを使用している。
方法は10m歩行テスト(快適歩行速度、歩行率)、キネクトを用いた三次元動作解析装置(ヒューテック社製ICpro)による歩行解析(角度)、重心動揺計(アニマ社製グラビコーダGW-5000)を用いての姿勢安定度評価指標検査を、裸足、金属AFO(底屈制動0°・背屈制動フリー)、カーボンAFO(ottobock社製Carbon Ankle Seven)の3条件で実施した。各装具の測定順はランダムに決めた。また同一日に全ての計測を行い、対象者の様子に合わせて適宜休憩をとった。
AFOは、靴型の足部と、金属支柱、カーボン支柱を一足分用意し、靴型と支柱はネジの締結によりその場で組み立て可能とした。靴型は装具作製時に使用した仮靴を再利用した。重量は金属AFO1706g、カーボンAFO1096gだった。
【結果】歩行速度はカーボンAFO(1.18m/秒)、裸足(1.11m/秒)、金属AFO(1.08m/秒)、歩行率はカーボンAFO(2.12steps/秒)、金属AFO(2.27steps/秒)、裸足(2.39steps/秒)だった。歩行解析では、裸足、金属AFOに比べ、カーボンAFOで膝関節角度の増加と肩関節挙上角度の減少が見られた。平均重心動揺面積は、カーボンAFO(8.81cm2)、金属AFO(12.71 cm2)、裸足(20.52 cm2)、また安定性限界面積はカーボンAFO(9.59 cm2)、金属AFO(7.76 cm2)、裸足(1.73 cm2)であった。
【考察】カーボンAFOは金属AFO・裸足に比べ、歩行速度は速く、歩行率も良好で、膝関節角度増加、肩関節拳上角度減少が見られた。また立位バランスを示す平均重心動揺面積と安定性限界面積も、カーボンAFOの数値が高い結果となった。
カーボンの特徴である、軽さと反発弾性によるエネルギーの蓄積と放出により、歩行速度と歩行率に影響があったと考えられる。また重量の軽さと反発弾性による足関節のなめらかな底背屈は、平均重心動揺面積と安定性限界面積、歩行時の膝関節角度などのアライメントに影響を与え、立位バランスが向上したと考えられる。
【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき、本人と保護者には口頭と書面にて了承を得た。一度同意を得られた場合でも、その後に同意撤回の自由を約束し、同意が撤回された場合でも今後の診療や通院に関して何ら不利益を被らないことを説明した。また常に連絡をとれるようにした。研究によって得られた個人情報は、記載内容から個人を特定される可能性があるため、測定日中に研究責任者が対象児を特定できないように氏名をID化した上でロックのかかるUSBメモリーに保存し、厳重に管理した。また、紙面上で得られた情報はデータ化したのちに、速やかにシュレッダーを用いて破棄した。