理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-7-3
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一般演題
運動指導により鉄棒前回りが可能となった自閉スペクトラム症児-園での鉄棒発表会に向けて-
-10ヶ月の介入を経て運動への意識が変化したケース-
栗田 梨渚今井 悠人福谷 真妃子成瀬 廣亮服部 恵平谷 美智夫
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抄録

【はじめに】

自閉スペクトラム症(以下,ASD)は,社会的・情緒的な相互作用やコミュニケーション障害に加えて,しばしば運動の苦手さが併存し,それに起因する自己肯定感の低下により集団活動への参加が制限されると報告されている(Miyahara,Piek,2006)。今回,運動に対する苦手意識が顕著な症例に対してスモールステップ指導を行い,運動への抵抗感の軽減を図り,鉄棒の前回りなどの運動技能獲得が認められたため報告する。

【症例紹介】

 5歳女児(保育園年長・田中ビネーⅤ IQ=90)。保育園の体操教室で友達と同じように取り組めないこと指摘され,当院を受診。DSM-5にてASDと診断。協調運動検査(Bruininks-Oseretsky Test of Motor Proficiency, Second Edition:BOT‐2)では問題を認めなかったが,口頭指示の理解に時間を要した。また,「できない」「しなくていい」などの発言があり,運動に対する苦手意識を有していると思われた。保護者からは「保育園の発表会までに鉄棒の前回りができるようになってほしい」という希望があった。

【経過】

 介入方針として,まず運動に対する苦手意識の軽減を目的に,本児が前向きに実施できた運動課題(跳び箱や縄跳び)に取り組むこととした。介入ではThが手本を示しながらポイントを確認し挑戦や小さな成功について賞賛した。運動への苦手意識が軽減してきた後,鉄棒の前回りに取り組むと,鉄棒動作(前回り)に必要な①鉄棒把持の持続,②ジャンプして鉄棒に乗り上がる,③鉄棒上で体を丸める動作が困難であった。また,黙り込んだり泣き出したりする場面もあったため,上記の動作を本児が達成可能な運動に目標設定し,①②は鉄棒を把持して腹部を付けるジャンプ,③はマット上での前転など段階的に指導した。介入前後の評価は,カナダ作業遂行測定(以下,COPM)遂行度スコアを使用し,実動作に対して保護者が1~10点で採点した。

【結果】

 COPM遂行度スコアは,介入前1から介入後4へと上昇した。前回りは介入4ヶ月後に自立となったが,同6~8ヶ月後の期間に練習しない時期があり再び実施困難となった。再度練習に取り組むことで軽介助にて実施可能となり,発表会で披露することができた。また,介入終了時には鉄棒の練習に意欲的に行うことができ,笑顔も多くみられるようになった。さらに,その後は逆上がりの練習にも前向きに取り組めるようになった。

【考察】

 発達障害児への運動指導では,心理面への配慮やスモールステップでの取り組み(宮原,2017),継続して練習できる環境づくり(Schoemaker,2015)が重要であるとされている。本症例では,運動に対する苦手さの軽減を図ったこと,難易度の高かった鉄棒をより簡単な課題になるよう目標設定し練習したことが,苦手な運動の克服につながった可能性がある。

【倫理的配慮,説明と同意】

本発表に関して保護者より口頭にて同意を得ている。

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© 2019 日本理学療法士協会
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