理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-7-4
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一般演題
「自閉的傾向を伴う発達障害」の診断を受けた児童の理学療法経過
菊地 謙齋藤 大地
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キーワード: 発達障害, 運動発達, 歩行
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抄録

【はじめに】

発達障害児の運動機能に遅れあるいは障害が見られることは多くの研究で指摘されている。特に、自閉的傾向が強まるほど運動発達は特異的になると考えられる。これまでの理学療法分野での先行研究において、自閉的傾向の強い児童の報告は数少ない。そこで今回、3歳10ヶ月時点で歩行未獲得であった児童の理学療法経過に関する知見を得たので報告する。

【症例紹介】

症例は、4歳8ヶ月の女児。診断名は自閉的傾向を伴う発達障害。初期評価時は、3歳10ヶ月。移動方法は四つ這いまたは膝立ち歩行。正座または胡座姿勢が多く、椅座位を嫌う。介助つかまり立ち位では足底接地を拒み、足関節底屈位で足部背面を接地。発語はほとんどなく喃語レベル。視線がほとんど合わない。上肢操作では右手を主に使用し、左手使用は促してもすぐに玩具を離すため、両手動作頻度は減少。下肢機能では足関節背屈の筋緊張がやや亢進(右>左)し、ハムストリングスの筋緊張亢進に伴う短縮も見られた。行動面では自傷行為が多く、不快から頭部を床や壁に打ち付けた。KINDER INFANT DEVELOPMENT SCALE(以下、KIDS)typeTは総合得点65点で下位項目では、運動11点、操作12点、理解言語8点、表出言語7点、概念−点(理解言語の発達年齢が1歳3ヶ月未満の為)、対子ども社会性5点、対成人社会性10点、しつけ1点、食事11点であった。以上の評価より理学療法方針は、左右差の軽減、筋緊張亢進部位の調整による姿勢のバリエーション拡大、および歩行獲得を目標とした。具体的なプログラムとしては、両手動作課題、足底接地課題、重心移動課題、および他者に対する認識の向上を立案・実施した。

【経過】

初回評価から10ヶ月経過した時点(4歳8ヶ月)でのKIDS typeTの総合得点は69点であった。下位項目では、運動17点、操作11点、理解言語9点、表出言語8点、概念−点、対子ども社会性2点、対成人社会性9点、しつけ3点、食事10点であった。また、約200mの屋外歩行を獲得し、視線の会う頻度や両手動作での遊びも増え、自傷行為も軽減した。

【考察】

本症例のKIDS typeTでは総合点数はわずかに向上し、下位項目では運動面において加点が見られた。身体接触機会の増加による身体イメージの確立や、姿勢変換の経験から歩行を獲得したと考えられた。下位項目の中で、対子ども社会性、対成人社会性、操作および食事では点数が低下していた。点数の低下の原因は、治療の中で感覚面の問題が影響を与える操作や食事などの上肢操作を考慮していなかったこと、社会性では母親との情報共有不足による適切な指導不足が考えられる。これらの要素が運動発達を阻害していた可能性も考えられる。そのため、今後は運動面のみに着目するのではなく、感覚面の問題や社会性に対しても包括的なアプローチが必要であると推察される。

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究はヘルシンキ宣言の精神に基づき、書面にて同意を得た。

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© 2019 日本理学療法士協会
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