理学療法学Supplement
Vol.47 Suppl. No.1 (第54回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: H-22
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学術大会長講演
サイドラインからデータを集めよう
―スポーツ理学療法研究ことはじめ―
渡邊 裕之
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抄録

 私が初めてアスリートを対象にデータを取り始めたのはチームに対して定期的に実施されるメディカルチェックからである。今から25年ほど前である。当時では珍しいハンドヘルドダイナモメータを評価に導入したのを機会に,アメリカンフットボール選手の頸部筋力や足趾筋力などを測定した。現在においてもアスリートからデータを取る一般的な機会はメディカルチェックではないだろうか。しかしながら,メディカルチェックから得られたデータを学会発表や論文作成に使用するためには,いくつかの留意点がある。

 対象者に対して測定を行った際に検者が変わると値も同様に変化する。メディカルチェックに用いられる計測手技は簡便であるが,徒手的操作が多く入るので誤差を多く含んでいるからである。一見,測定の際の誤差は必然のように取り扱われるが,誤差を極力小さくする努力が必要である。誤差の大きい測定は真値から大きく離れ,間違った情報を検者に与えるだけでなく,最終的にアスリートに対して不利益を生じさせてしまう。

 精度の高い評価とは誤差の少ない(あるいは誤差の存在が明確な)評価である。誤差には偶然誤差と系統誤差がある。偶然誤差は測定機器の精度や検者の測定時の生じる過失などであり,系統誤差は一定の傾向を有する誤差で検者の癖,測定機器の特性,測定原理の誤りなどで生じる。十分なトレーニングが実施されていない徒手的な評価は,検者自身によって生み出される誤差を多く含み過度な影響を与える。関節可動域測定(ROM検査)の最小評価単位は5度であるが,この根拠は異なる検者間で生じる誤差が5度単位であることを意味する。

 本講演では徒手的に用いられる評価手技の精度を高め,学術的なデータとして利用するための留意点と工夫について実例を用いて紹介したい。

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