理学療法学Supplement
Vol.48 Suppl. No.1 (第55回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-15
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シンポジウム2 神経系理学療法における基礎と臨床の接点
再生医療の進歩に呼応したリハビリテーション
愛知 諒
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抄録

 従来,脊髄を完全に損傷すると麻痺領域の神経機能の回復が困難とされてきましたが,『中枢神経は再生しない』という従来の常識は,今や明確な科学的エビデンスをもって覆されつつあります。現在では分子・細胞レベル,実験動物での神経再生に関する研究成果の蓄積を経てヒト臨床症例を対象とした治験が複数の手法で進められ,昨年には骨髄間葉系幹細胞に由来する製剤「ステミラック注」が薬価収載に至ったことに反映されるように,再生治療が現実的な選択肢となる可能性が高まりつつあると言えます。再生医療が現実味を帯びてきた一方で,これまで行われてきた再生医療の臨床試験では効果検証が臨床指標に留まっているものも多く,ヒトを対象とした治療効果についてのエビデンスが乏しい状態だと言えます。これらを踏まえ私が所属する国立障害者リハビリテーションセンター病院再生リハビリテーション室では大阪大学医学部付属病院が実施する自家嗅粘膜移植症例,札幌医科大学病院が実施する骨髄間葉系幹細胞投与症例を受け入れ,再生医療前後のリハビリテーションを実施,その過程での慢性期脊髄損傷者の身体機能の変化を捉えるために経頭蓋磁気刺激などの神経生理学的検査やロボティクスを用いた受動歩行中の下肢筋活動の経時的な変化を測定するなど包括的な機能評価を行い,改善の背景にある神経メカニズムを検証につながる精度・確度の高い効果検証を行うことを目指しています。従来の機能回復の限界を打ち破る可能性を秘める再生医療は,リハビリテーションのありかた,そこに関わる理学療法士の立場と役割にも変化をもたらすことが予想され,再生医療の実現を念頭においた時に,どのような認識と役割をもってリハビリテーションの臨床を進めていくのかを現実味をもって考える時期に入ってきたと言えるでしょう。本発表では,私たちがこれまでに実施してきた再生医療と連動したリハビリテーションの概要と視点を紹介し,再生医療の進歩に呼応したリハビリテーションのあり方を考えることで,新しい評価手法/介入方法の現場への実装について考える契機とできればと考えています。

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