理学療法学Supplement
Vol.48 Suppl. No.1 (第55回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-16
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シンポジウム3 内部障害系理学療法における基礎と臨床の接点
腎臓リハビリテーションの基礎と臨床
上月 正博
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抄録

 慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease;CKD)は,サルコペニア,フレイル,骨粗しょう症,心血管肥大,血管石灰化などを呈する「早期老化モデル」の代表の1つとして,その予防,治療,管理は大きな関心を呼んでいる。なかでも,CKDといえばかつて安静にすることが治療のひとつだったが,最近では,透析患者も保存期CKD患者も「運動制限から運動療法へ」と考え方がコペルニクス的転回をみた。

 腎臓リハビリテーションは,腎疾患や透析医療に基づく身体的・精神的影響を軽減させ,症状を調整し,生命予後を改善し,心理社会的ならびに職業的な状況を改善することを目的として,運動療法,食事療法と水分管理,薬物療法,教育,精神・心理的サポートを行う,長期にわたる包括的なプログラムである。

 私は1990年代より,長期的運動による腎への影響について検討してきたが,ある種のCKD動物モデルでは,長期的運動が腎保護作用を有することを見出した。英語論文を継続して発信していくことで,その関心は徐々に高まり,2010年ごろから臨床でも,保存期CKD患者に対する運動療法の無作為比較試験で腎機能が改善することが報告された。また,運動療法としてのウォーキングがCKD患者の10年間の全死亡リスクや透析などの腎代替療法移行率を低下させることも報告されている。いまや,腎臓リハビリテーションが腎機能改善・透析移行防止のための新たな治療としての大きな役割が期待されている。臨床研究のさらなる発展には,組織の構築,ガイドラインの作成,診療報酬収載が重要であり,腎臓リハビリテーションに関しては,日本腎臓リハビリテーション学会(2011年設立),腎臓リハビリテーション指導士(2018年設立),「腎臓リハビリテーションガイドライン」(2018年),「腎不全患者指導加算」(2016年),「高度腎機能障害患者指導加算」(2018年)がそれにあたる。講演では,基礎から臨床までのこれらすべてにかかわった幸運な一人の研究者として腎臓リハビリテーションの歴史を紹介する。

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