主催: 日本理学療法士協会
Perryは一歩行周期を立脚期と遊脚期に分類し,立脚期に重要な課題として「荷重応答」と「片脚支持」を,遊脚期に重要な課題として「遊脚」を挙げている。本講演ではPerryの課題分類に基づき,正常歩行の運動学的なメカニズムと脳卒中患者の歩行を観察する際のポイントについて概説する。
<荷重応答>
荷重応答は初期接地期(IC)~荷重応答期(LR)において行われる。初期接地期では股関節屈曲位で踵接地することによりHeel Rockerが機能し,円滑な荷重応答が行われることが重要である。また,荷重応答期では膝関節伸筋群の遠心性収縮により荷重時の衝撃吸収と支持が行われ,かつ,それらが前進しながら行われることが重要である。これらのことから,初期接地期~荷重応答期では「股関節屈曲位」「踵接地」「膝関節屈曲運動」が観察のポイントとなる。
<片脚支持>
片脚支持は立脚中期(MSt)~立脚終期(TSt)~前遊脚期(PSw)において行われる。立脚中期では足関節の十分な屈曲可動域と底屈筋群の遠心性収縮によってAnkle Rockerが機能し,身体が足部位置を越えて前進することが重要である。立脚終期では股関節の十分な伸展可動域と屈筋群の遠心性収縮によって股関節が伸展位(trailing limb position)となり,身体が支持脚を大きく超えて前進することが重要である。また,このときの股関節から床に降ろした垂線と床反力作用点(COP)と股関節を結ぶ線のなす角度(trailing limb angle)は歩行速度に強く関連することが知られている。立脚終期~前遊脚期では中足趾節間関節の十分な伸展可動域と足関節底屈筋群の求心性収縮によってForefoot Rockerが機能し,踵離地しながら前進することが重要である。これらのことから,立脚中期~立脚終期~前遊脚期では「足関節背屈運動」「股関節伸展運動」「中足趾節間関節伸展運動」「足関節底屈運動」が観察のポイントとなる。
<遊脚>
遊脚は前遊脚期(PSw)~遊脚初期(ISw)~遊脚中期(MSw)~遊脚週期(TSw)において行われる。前遊脚期は立脚期と遊脚期の両方に関係する特殊な相であり,股関節屈筋群の求心性収縮による股関節屈曲運動と足関節底屈筋群の求心性収縮による足関節底屈運動によって,受動的な膝関節屈曲運動が生じる。また,このときの股関節屈曲運動は遊脚の力源であり,足関節底屈運動は踵離地に寄与しているため,股関節と足関節の協調性も重要である。遊脚初期以降は足関節背屈筋群の求心性収縮によって足関節背屈位を保持し,トゥクリアランスが行われることが重要である。同時に,膝関節が大きく屈曲することによる下肢長の短縮(機能的短縮)もトゥクリアランスに寄与している。遊脚中期から遊脚終期では股関節屈曲運動に続く二重振り子作用によって膝関節が伸展するため,膝関節屈筋群の遠心性収縮によって過伸展が制御されることも重要である。また,遊脚終期では,股関節伸筋群の求心性収縮による股関節伸展運動と足関節背屈筋の求心性収縮による足関節背屈位保持によって,次の立脚(踵接地)に向けた準備が行われることが重要となる。これらのことから,前遊脚期~遊脚初期では「股関節屈曲運動」「膝関節屈曲運動」「足関節底屈運動」が,遊脚中期~遊脚終期では「膝関節伸展運動」「足関節背屈運動」が観察のポイントとなる。