主催: 日本理学療法士協会
超高齢社会の今,高齢者の介護予防・健康寿命への関心は高まる一方である。
当法人は特別養護老人ホームを中心に,「通い・泊り・訪問」の各種在宅事業を運営しているが,高齢者が要介護状態になる前段階で,専門職による予防的ケア,生活期リハビリ等の関わりがあれば,心身の機能低下を防げたと思われる事例を多く目にしてきた。高齢者が住み慣れた地域で在宅生活を継続するためには,買い物やゴミだし,通院,旅行など,行きたい場所に自分で移動できる能力が不可欠であり,「歩く」ことは生活の質に関わる極めて重要な生活動作である。“いつまでも自分の足で歩く”ことをコンセプトに開設した,リハビリ特化型デイサービス「げんき・須磨」(以下,「げんき・須磨」)では,週5日,専任の理学療法士・看護師・介護職員を配置し,午前・午後の2交替制(定員各20名)で運営を行っている。
約150名の利用者の平均年齢は81歳,年齢層は64歳から95歳までと幅広い。その大半が独居・高齢者世帯であり,歩行能力は自立か杖歩行で週2日程度の利用が多い。また,骨折や脳卒中などの退院後に利用開始となる事例が多い。急性期を経て回復期から生活期へと移行するプロセスにおいて,医療と介護が継続的に連携できる仕組みが充実すれば,地域の中で身体的・社会的フレイルを予防することにもつながる。しかし,現状では,これらの仕組みがまだ不十分である。「げんき・須磨」では,サービス提供前に自宅での暮らしの様子を確認し,転倒予防や在宅生活の継続など,利用者本人の意思決定・自己実現を尊重した目標を定め,個別のリハビリ・運動メニューを組んでいる。開設当初から導入したHONDA歩行アシストは,歩行評価を可視化することが可能であり,また理学療法士の指導のもと,介護職員でも装着・操作・歩行データの取り込みが行えるため,特別な機器という抵抗感なく活用が定着している。その他にも下肢の訓練に適した10種のリハビリ機器を導入しており,訓練前後の変化や運動評価を数値で示せることが,利用者の達成感や自信の回復に繋がっている。歩行状態が改善したことにより,外出頻度や行動範囲が増え,散歩や神社の階段の昇降ができるようになるなど,生活面での変化もみられた。高齢者住宅から再び自宅に戻った方もいる。また,「げんき・須磨」には本格的なパティスリーを併設しているため,焼き立てのケーキやパンを買うことができる。吹き抜けの庭やソファやベンチもあり,敷地内の坂で歩行訓練をしたり,鉢植えの世話をしたり好きな場所で雑談に興じる方もいる。リハビリ特化型とは言え,黙々とリハビリを行うというより息抜きをしながら体を動かせる環境となっており,利用者同士が高齢期特有の悩みを共有し,励まし合う場所にもなっている。職員が自宅への送迎時に,また利用者との何気ない会話や雑談から,生活上の課題や体の変化に気付くことも多い。このたびのコロナ禍では,利用を自粛した方に明らかなADLの低下が認められた。たとえ週に1回であっても家の外に出て他者と交流し,活動し,体を動かすこと,それを継続することが在宅での生活継続とフレイルの予防に繋がると実感している。