理学療法学Supplement
Vol.48 Suppl. No.1 (第55回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-23
会議情報

シンポジウム
日常生活の適応力を高めるために歩んだ道
堀井 孝佳
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

 脳疾患の患者は,療法士と共に今も上・下肢の運動麻痺の後遺症と闘っている。以下は私の身体的基礎データと実際に体験したエピソードである。

 9年前に脳卒中を発症し,視床下部出血と診断され,右側の上下肢ともに運動麻痺を患った。現在は腕は肩より少し上げられ手指は物をゆっくり握れる。足は何かに摑まればスクワットが可能。感覚は触られると何となく分かる程度。人と会話はできる。屋内歩行は壁をつたいながら歩く。屋外の歩行はT字の杖と短下肢装具で十メートル以上歩くことが可能。但し,外出時は転倒への不安や疲労,時間効率から電動車いすを利用。通勤や遠出の際には乗降時には乗務員の介助を依頼している。

 

1.克服すべきリハビリのバリアと実生活のバリア

 一歩外に出れば,屋内のリハビリでは想定しなかったバリアが多々ある。健常時代には気にも留めなかった道路の傾斜,荒れた舗装道路に足を取られるなど,至る所にある小さな段差・傾斜が全て転倒リスクに繋がる恐怖に足が竦んでしまうことがある。そこで,私はリハビリでは歩行の長距離化や高速化ではなく,ゆっくり歩いていても歩行姿勢の矯正や人通りが少ない安全な場所での独歩や方向転換,階段の昇降訓練を繰り返し行った。あくまで実際の生活に近い環境を探し出し,介助者が周囲にいなくても一人で危険から脱出できる訓練をした。

 

2.エピソード紹介(エビデンス)

 ここでは,リハビリに留まらない目標を上肢・下肢において設定したエピソードを紹介する。

1)上肢:電気刺激装置を用い,リハビリとしての患側右手首の背屈の後に,缶コーヒーのスクリューキャップ開栓(小さな目標:目的動作)に成功したエピソード

 電気刺激装置で痛くない程度の電気刺激を行いこの刺激に慣れる。この時,患側の右手が温かくなる。翌日に電気刺激のパルス印加周期に応じて,患側右手首の背屈を繰り返し行う。15分/日を継続する。1週間後に無通電で通電時と同様の右腕の背屈を行う。最初はわずかしか反応しなかったが無通電で1週間繰り返すうちに,通電時と同じくらいに患側右手が背屈するようになる。電気刺激なしで背屈ができるようになったら,次につまみやすい直径のスクリューキャップで回す練習を行う。数回の反復練習のうちに力加減も習得でき,缶コーヒースクリューキャップ開栓に成功! 背屈だけでは味わえない喜びがそこにはあった。

2)下肢:電気刺激装置を用い,リハビリとしての患側右足首を背屈の後に,椅子に座りすり足で手前に引き込む(小さな目標:目的動作)ことに成功したエピソード

 電気刺激装置で痛くない程度の電気刺激を行いこの刺激に慣れる。この時,患側の右足が温かくなる。翌日に電気刺激のパルス印加周期に応じて,患側右足首の背屈を繰り返し行う。15分/日を継続する。1週間後に無通電で通電時と同様の右足首の背屈を行う。最初はわずかしか反応しなかったが1週間繰り返すうちに,通電時と同じくらいに患側右足首が背屈するようになる。電気刺激なしで背屈ができるようになったら,次に右足をすり足で手前に引き込む練習を行う。数回の反復練習のうちに力加減も習得でき,椅子に座りすり足で手前に引き込むこと(小さな目標:目的動作)に成功! 患側右足首の背屈だけでは味わえない喜びがそこにはあった。

 

3.適応力を高める為に

 今回は私自身のリハビリの経験から,成果・問題点・今後の課題について報告する。医療現場でのリハビリは,一歩外に出たらそこはこれまでのリハビリが通じない世界だった。患者の体験する実生活の世界には,患者の想像を遥かに超えるバリアがそこにはあった。これまでのリハビリの方法や練習量が間違っていたのではない。それだけでは,生活期には足りないのである。リハビリのみの質・量を改善している限り,決して到達できない適応力があることを感じた。

著者関連情報
© 2021 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top