主催: 日本理学療法士協会
ボバース概念は,ボバース夫妻(カレル・ボバース;神経科医師PhD,ベルタ・ボバース;理学療法士)の共同作業にて1940代より発展し,個別性と活動の質を重要視しながらも,当事者だけでなく,家族,生活および社会環境も含めた全人的なアプローチとして広まりました。
かつては,「反射抑制姿勢(RIP)・パターン(RIPs)」など,「抑制」という言葉のインパクトにより,姿勢や運動を特定の状況に静止させて緊張を抑え込むといった誤解や,「正常姿勢反射機構」等の用語からも,いわゆる正常運動順序を踏襲するような誤解がありました。脳性麻痺児への治療介入のシステマチックレビューとしてのNovak I(2020)は,NDT(神経発達学的治療)は,「Don’t do it」と「行わない方が良い」と位置付けましたが,日本のボバース概念は,英国,ヨーロッパとともに,アジア(韓国,東南アジア等)の中で発展してきたもので,米国のNDTA(神経発達学的治療協会)とは一線を画しています。
メイストン女史(元・ボバースセンター所長)(2008)は,ボバース概念のオリジナルの部分はボバース夫妻の頃から変わっていないし,今後も変えるべきではないと唱えています。また,神経理学療法では,特定の概念に偏らず,一人のクライエント/こどもにサービスを提供するうえでは,多方面からの総合的な介入が必要ともしていますが,元来,ボバース概念は,特殊な治療法,テクニックではなく,当事者中心に,運動面だけでなく,精神発達,環境調整,目標達成指向,24時間マネジメント等をセラピストだけでなく,多職種との連携の中で達成するといった総合的アプローチの概念です。
治療根拠となっている理論背景としては,中枢神経系の可塑性,定型発達の神経発達的展開とその学習過程を個体,環境,課題等から有機的に統合し,重力環境下での姿勢運動制御理論を臨床に般化した問題解決アプローチとして体系化されてきました。
ボバース概念には,エビデンスがないと言われています。ブロック女史(ボバース概念成人領域指導者/豪州)は,臨床介入の理論背景としてEBM,EBPTで提示されているエビデンスを踏襲するだけでは限界があり,不十分であるとしています。直接的ではないが臨床介入の根拠となる知見を活用したエビデンス・インフォームド・セラピー(Evidence Informed Therapy)という考え方も重要であり,多くの科学者がその考え方を支持しているとしています(2019)。
紀伊克昌氏が聖母整肢園(現・大阪発達総合療育センター)にてボバース概念を実践し始めて50年となりますが,2013年より,前述したより科学的根拠を背景とし,より実践的な“近代ボバース概念”を打ち出しました。セラピストの臨床推論過程を体系化した“ボバース臨床実践モデル(以後,MBCP;Model of Bobath Clinical Practice)”が,成人領域の指導者組織である国際ボバースインストラクター教育機関(IBITA)により提案され,国際的専門誌に掲載されました(Michielson et al;2017)。そして,紀伊氏は,成人,小児領域の共通性と異分野,課題を臨床,教育の発展を踏まえて,小児版のMBCPに改良,編集し,講習会等で展開しています。アジア小児ボバース講習会講師会議(以下,ABPIA;Asia Bobath Pediatric Instructors Association)で普及させているものです。以後,ボバース概念の正式参照となっています。
ボバース概念は,特異的な考え方,テクニックではなく,ICF概念に則った総合的なアプローチであり,ハンドリングを含めた様々なツールを活用して,子どもの潜在能力を最大限にサポートするアプローチであり,臨床セラピストの教育システムの一つとなっています。