主催: 日本理学療法士協会
本邦の脳卒中リハビリテーションガイドラインでは早期からの起立・歩行訓練が推奨されており,現状として回復期リハビリテーション病棟では,下肢装具の早期作成,積極的な歩行練習が広く普及している。当院においても下肢装具の作成は早期化し,後方視的調査では発症後3か月以内に下肢装具を作成した早期作成群と発症後3か月以降に下肢装具を作成した遅延作成群と比較した結果,退院時の屋外歩行自立度,階段昇降自立度,歩行速度が有意に改善する結果となり,回復期リハビリテーション病棟においても一定の効果が得られていると考えられる。しかし,この背景には,歩行練習の速度依存性に歩行速度が改善することや,歩行自立の獲得が早期化することにより,早い段階で応用歩行のトレーニングが可能になることが交絡因子として存在しているため,早期から装具歩行を行えば確実に改善するという事柄ではない。また,早期に装具歩行を開始しても効果が得られない事象も報告されている。Nikampらは亜急性期の脳卒中片麻痺者に対して,発症1週間後からAFOを使用した早期使用群と発症9週間後から使用開始した遅延使用群に対して,26週間後の長期的効果について検証しているが,歩行速度に関しては早期使用群が有意に高いものの,膝関節・股関節・骨盤の運動に関しては変化がないと報告しており,早期に装具歩行を開始しても歩容が著しく変わるわけでないと述べている。同様に前脛骨筋の活動電位に関しても調査をしているが,26週間後には早期使用群と遅延使用群で差はないとされている。すなわち,開始時期の遅速では歩行速度や自立度は向上に関与するものの,歩容の改善に関しては効果が得られていない実情がある。この他にも,Aliyehらが2018年に報告したAFOのタイプ別に歩容に対する効果を検証したsystematic reviewにおいて,全種類のAFOがHeel Rockerや遊脚期のトゥクリアランスに貢献するものの,遊脚期の膝関節運動や股関節運動,Forefoot Rockerに影響を及ぼす報告は殆どされておらず,装具歩行練習が歩容に及ぼす効果としては引き続き検証が必要であると述べられている。これらの情報を踏まえると,足関節より上位の関節運動に改善が得られる方略に関して,下肢装具による直接的な歩容の変化が運動学習に与える影響や対象者固有の身体的状況・運動パターンによる影響,装具歩行練習を実施する際の体幹や骨盤帯への誘導的介助による影響等を検証し,装具歩行練習が歩容の改善に及ぼす検証をしなければならない。本報告では,臨床上多く用いられる短下肢装具に焦点をあて,装具歩行の練習結果として,裸足歩行時の遊脚期股関節・膝関節運動に影響を及ぼしたresponder群とそうではないnon-responder群で初期条件の比較検証を行い,歩容が改善しやすい条件または改善しにくい条件に関して解説していきたい。また,実際の装具歩行場面で体幹や骨盤帯への誘導的介助に関して,バイオメカニクス的視点から歩容に及ぼす影響を紹介する。