理学療法学Supplement
Vol.48 Suppl. No.1 (第55回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-30
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シンポジウム
入院から在宅につなぐ脳卒中者の訪問リハビリテーション
古賀 阿沙子
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抄録

 当院がある八尾市は,大阪府の中央部東寄りに位置し,高齢化率は28.3%で人口約266,000人が暮らす地域である。当院は,「その人がその人らしく自分の人生を全うする」ことを支援するために,回復期リハビリテーション(以下,リハ)病棟(59床)と地域包括ケア病棟(60床)の119床の入院機能に加え,外来・通所・訪問リハを備えている。そして,各領域にセラピストを配置し,各々の立場から役割を果たせるように努めている。また,何らかの理由で在宅生活の継続が一時的に困難な状態となった(予測される)方には,地域包括ケア病棟を活用していただけるように当地域内で広報し,住み慣れた地域で暮らし続けるための支援を地域内で完結できることを目指している。

 当院訪問リハの特徴は,全利用者の約7割が当院入院からの移行であり,従事者は回復期リハ病棟での業務を経験していることである。つまり,つなぐ・受ける双方の役割を理解した上で連携することに価値を置いている。訪問リハの体制は,常勤換算7.5名で月平均約90名の利用者への支援を行っている(2020年7月現在)。2017年4月1日から2019年3月31日までの期間で当院訪問リハを終了した利用者は213名で,その内脳卒中者は75名(装具利用者は29名)である。入院中に装具を作製した利用者には退院後の訪問リハにて適合状態を適宜確認し,修理が必要な場合はリハビリテーション科専門医に報告した上で当院の装具診へ,新たな装具を作製する必要がある場合は事業所内でカンファレンスを行い,装具診へ誘導する流れを設けている。しかしながら,在宅の場で行われる訪問リハでは,支援内容が表面化しづらく,結果的に担当セラピストの裁量に委ねられやすい側面があることから,当院では複数担当制を設け,意図的に意見交換をしながら支援を進める体制としている。脳卒中者75名の終了理由では,目標達成45名,入院9名,入所6名,死亡2名,転居3名,その他10名であった。退院後の在宅生活では,合併症の悪化や再発の予防,転倒による骨折を防ぐことが重要であり,訪問リハにて健康状態の把握と環境への適合を早期に調整することは,リスクの回避につながる。しかし,状態の低下に伴う終了が全体の2割(15名)を占めている現状があることを理解しておきたい。

 訪問リハはその人が暮らす住まいに出向き,その人の思いを尊重しながら,リハマネジメントを通して利用者及び家族・多職種と目標を設定し,納得した生活を過ごしていただけるように支援するものであり,決して容易ではない。たとえ訪問リハの必要性が高くても利用者(家族)に受け入れてもらえなければ,利用を開始することはできない。また,開始した後も何らかの原因で担当あるいは他事業所への変更を余儀なくされることもあり,入院中に思い描いた生活が退院後の生活とかけ離れてしまうこともある。脳卒中者は在宅に戻り,生活を送る中ではじめて「動きづらい身体」,「思うように動けない自分」と対面することで,葛藤が生じやすい。だからこそ,その人の人となりやこれまでの生活歴,生活する上で大事にされていることの情報を受け手側が持ち合わせておくと,利用者と向き合う際の一助になる。さらに,入院中のリハの経過やその過程で作製した装具の目的を把握しておくことは,退院後の生活を展開していく上で有意義であると考える。

 本シンポジウムでは,脳卒中者の退院後の訪問リハの現状についてお伝えし,入院と在宅,双方の立場から脳卒中者の生活をどのように支え,展開させていくかを議論する機会としたい。

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