抄録
顎裂を有する患者に対し顎裂部骨移植は広く行われている。しかし,施設により移植方法,時期,結果の評価法は様々で,その実態を知ることは,治療の質向上を図るために重要である。今回多施設共同研究の一環として,顎裂部骨移植に関するアンケート調査を実施した。
対象は矯正歯科医を中心とした「日本における口唇裂・口蓋裂治療に関する多施設共同研究を考える会」に参加している国内28施設で,26施設 (88%) が回答した。対象症例は片側性唇顎口蓋裂とし,調査項目は1.過去3年間 (2011年1月から2013年12月) に骨移植を施行した時の患者の年齢,2.移植時期を決定する診療科,3.移植時期決定の指標,4.骨移植を行う診療科,5.移植骨採取部位,6.骨移植結果の判定資料,7.結果の判定基準,8.骨移植前の前処置,9.顎裂部骨移植を施行する際の各施設における問題点の9項目とした。
その結果,施術年齢の平均は8歳3ヶ月で,骨移植の時期を決定する診療科は矯正歯科が多く,隣接する犬歯の歯根形成状態を指標としていた。しかし,3施設が永久切歯の配列や社会的環境に配慮し,小学校就学前に行っていた。また,骨移植を行う診療科は連携する形成外科および口腔外科といった複数の施設・診療科を挙げた施設が最も多く,続いて形成外科のみ,口腔外科のみの順であった。移植骨採取部位はすべての施設で腸骨からであったが,1施設はオトガイ皮質骨の場合もあると回答した。骨移植の結果については,ほとんどの施設がパノラマ,デンタル,オクルーザルX線写真を用いて評価すると回答したが,CTを加えて評価すると回答した施設も多かった。移植結果の評価時期・方法は施設により様々であった。顎裂部骨移植の術後評価については統一した見解は認められず,治療の質向上を図るためにはいつ,どのような方法で評価を行うか評価基準について検討する必要があると思われた。