日本口蓋裂学会雑誌
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40 巻, 3 号
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原著
  • 北野 市子, 鈴木 藍, 朴 修三, 加藤 光剛
    2015 年 40 巻 3 号 p. 197-206
    発行日: 2015/10/30
    公開日: 2015/12/16
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    目的:静岡県立こども病院で同一術者によって25年間,口蓋形成術を施行された児の鼻咽腔閉鎖機能 (以下VPF) および構音の経年的変化を調査する。
    対象:1989年以降に当院で初回の口蓋形成術を同一術者が施行した329例のうち,4歳から16歳まで定期健診を実施できた104例 (男児52例 女児52例) を対象とした。裂型は両側唇顎口蓋裂 (BCLP) 18例,片側唇顎口蓋裂 (UCLP) 43例,口蓋裂 (CP) 43例であった。
    方法:VPF評価法は日本コミュニケーション障害学会口蓋裂言語検査法の4段階評価を用いた。構音障害は構音検査法を実施し,構音動態の観察および聴覚判定から判断した。
    結果:1.VPF VPFについては,どの年齢でも手術の適応がない良好およびごく軽度不全例が80~90%と安定していたが,経年的には良好例の減少が全裂型に認められた。2.構音障害 構音障害の有無および種類は裂型によって有意差を認めた。即ち口蓋化構音の出現率はBCLPで著しく多く,次いでUCLPに多かった。一方CPでは側音化構音が多く認められた。矯正歯科治療や顎裂部骨移植による顎形態の改善により,訓練なしに構音障害が消失した例も見られた。構音障害定着例のうち約半数は構音訓練の希望がなく,その全例が口蓋化構音または側音化構音であった。
    まとめ:唇顎口蓋裂の治療成績は,全体としてみると安定しているが,経年的に変動している症例も存在した。これらは成長に伴う顔面や咽頭形態,軟口蓋長の変化,アデノイドの退縮等によるものと思われた。長期的な経過観察が行える体制としては,一施設内で多職種によるチームアプローチが重要であり,これにより患者の安定した受診行動が可能になると考えられた。
  • 玉田 一敬, 新藤 潤, 本間 英和, 志藤 宏計, 中村 友季恵
    2015 年 40 巻 3 号 p. 207-212
    発行日: 2015/10/30
    公開日: 2015/12/16
    ジャーナル 認証あり
    目的:口唇裂初回手術にあたって,全身状態を評価し合併異常の有無を確認することは重要であるが,そのためにどのような検査が必要なのかということについては未だ一致した見解は得られていない。したがって,画像検査によるスクリーニングが口唇裂の合併異常検索にどの程度有効であったかを評価する目的で,東京都立小児総合医療センター (当院) で初回手術を行った患者について後方視的検討を行った。
    方法:2010年4月から2014年3月までの4年間に当院で口唇裂初回手術を行った全133症例につき,合併異常の有無と発見の契機に関して調査を行った。この際,副耳や先天性耳瘻孔といった視診で容易に診断可能な体表形態異常は対象としないこととした。
    結果:多くの症例で心エコー・腹部エコー・新生児科医による診察を中心とした合併異常の検索が行われていた。133症例中,18例が体表形態異常以外の合併異常を有していた。そのうち5例は重篤な心疾患や症候群であり,スクリーニング検査以前に明らかな合併異常と考えられた。また,4例は気管狭窄や卵円孔が心房中隔欠損として残存したものなど,スクリーニング検査でも発見不可能であったと考えられた。残る9例はスクリーニング検査によって初めて診断可能であったと思われる合併異常であった。
    考察:口唇裂術前の全身状態評価に関しては,施設によって初診までの期間や医療機関へのアクセスの良し悪しは異なり,また医療経済的側面や被爆のリスクなどを考えると,必要十分な術前検査の内容を画一的に決めることは難しい。しかしながら,当院におけるプロトコールのもと発見された,合併異常を有する口唇裂症例の内訳を提示することは他の施設にとっても有用となりうると考えている。今回の検討からは,当院におけるスクリーニングプロトコールはリスクベネフィットの観点から比較的妥当なものと考えられた。
  • 彦坂 信, 金子 剛, 梶田 大樹, 加藤 達也, 佐藤 裕子, 今井 裕弥子, 栁澤 瞳
    2015 年 40 巻 3 号 p. 213-218
    発行日: 2015/10/30
    公開日: 2015/12/16
    ジャーナル 認証あり
    【目的】国立成育医療研究センターで鼻咽腔閉鎖機能不全に対して咽頭弁形成術を施行した症例の言語評価を行った。
    【対象と方法】2002年3月1日から2012年12月31日までに咽頭弁形成術を施行した67例のうち,当院での術後2~3年時点での言語評価が可能であった28例を対象とした。咽頭弁形成術はHogan法により施行した。周術期の言語訓練および評価は当センターの言語聴覚士3名により行われた。鼻咽腔閉鎖機能を良好・ごく軽度不全・軽度不全・不全の4段階で評価し,更に鼻咽腔閉鎖機能と関連の大きな異常構音として,声門破裂音,咽頭破裂音,咽頭破擦音,咽頭摩擦音を評価対象とした。
    【結果】対象28例の手術時年齢中央値は,6歳1ヶ月 (3歳0ヶ月~14歳10ヶ月) であった。原因疾患は,口蓋裂術後10例,粘膜下口蓋裂9例,先天性鼻咽腔閉鎖不全症9例であった。他の先天異常の合併を10例に認めた。鼻咽腔閉鎖機能は,術前では軽度不全15例,不全13例であり,術後では良好8例,ごく軽度不全17例,軽度不全3例であり,全例で改善を認めた。異常構音を認める症例は,術前12例から術後は7例に減少した。22q11.2欠失症候群の5例では,術前・術後2~3年時とも鼻咽腔閉鎖機能が比較的低いが,術後4年以上を経て改善が見られた。知的障害 (IQ・DQ70以下) を伴う9例では,術前の鼻咽腔閉鎖機能および術後2~3年時の改善度が有意に低かった。
    【考察】咽頭弁形成術と術後の言語訓練は,鼻咽腔閉鎖機能とこれに関連する異常構音の改善に有用であると考えられた。22q11.2欠失症候群の場合,鼻咽腔閉鎖機能の改善度は術後2~3年時には低いが,長期の経過で改善がみられる場合があり,長期間の言語訓練が重要と考えらえた。知的障害を伴う場合,鼻咽腔閉鎖機能の改善度は低く,術後の言語訓練によっても正しい言語機能の習得が困難なことが示唆された。
  • 朝日藤 寿一, 幸地 省子, 須佐美 隆史, 丹原 惇, 齋藤 功
    2015 年 40 巻 3 号 p. 219-225
    発行日: 2015/10/30
    公開日: 2015/12/16
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    顎裂を有する患者に対し顎裂部骨移植は広く行われている。しかし,施設により移植方法,時期,結果の評価法は様々で,その実態を知ることは,治療の質向上を図るために重要である。今回多施設共同研究の一環として,顎裂部骨移植に関するアンケート調査を実施した。
    対象は矯正歯科医を中心とした「日本における口唇裂・口蓋裂治療に関する多施設共同研究を考える会」に参加している国内28施設で,26施設 (88%) が回答した。対象症例は片側性唇顎口蓋裂とし,調査項目は1.過去3年間 (2011年1月から2013年12月) に骨移植を施行した時の患者の年齢,2.移植時期を決定する診療科,3.移植時期決定の指標,4.骨移植を行う診療科,5.移植骨採取部位,6.骨移植結果の判定資料,7.結果の判定基準,8.骨移植前の前処置,9.顎裂部骨移植を施行する際の各施設における問題点の9項目とした。
    その結果,施術年齢の平均は8歳3ヶ月で,骨移植の時期を決定する診療科は矯正歯科が多く,隣接する犬歯の歯根形成状態を指標としていた。しかし,3施設が永久切歯の配列や社会的環境に配慮し,小学校就学前に行っていた。また,骨移植を行う診療科は連携する形成外科および口腔外科といった複数の施設・診療科を挙げた施設が最も多く,続いて形成外科のみ,口腔外科のみの順であった。移植骨採取部位はすべての施設で腸骨からであったが,1施設はオトガイ皮質骨の場合もあると回答した。骨移植の結果については,ほとんどの施設がパノラマ,デンタル,オクルーザルX線写真を用いて評価すると回答したが,CTを加えて評価すると回答した施設も多かった。移植結果の評価時期・方法は施設により様々であった。顎裂部骨移植の術後評価については統一した見解は認められず,治療の質向上を図るためにはいつ,どのような方法で評価を行うか評価基準について検討する必要があると思われた。
統計
  • ―初診患者についての検討―
    加藤 伸一郎, 奥村 嘉英, 山田 道代, 浅野 千明, 杉浦 正幸
    2015 年 40 巻 3 号 p. 226-232
    発行日: 2015/10/30
    公開日: 2015/12/16
    ジャーナル 認証あり
    1988年1月から2013年12月31日までの26年間に当科を受診した口唇口蓋裂患者148人を調査した。
    結果:患者は男性70人,女性78人であった (計:148人)。患者は名古屋市在住のものが最も多く79人 (53.4%) であった。13人 (8.8%) は愛知県外 (岐阜県,三重県,静岡県) 在住であった。裂型別では,口唇 (顎) 口蓋裂群が58人 (39.8%),口蓋裂群40人 (27.0%),粘膜下口蓋裂群29人 (19.6%),口唇 (顎) 裂群21人 (14.2%) であった。片側の口唇裂は,52人 (65.8%),両側性は27人 (34.2%) であった。口唇裂の側性は左側39人 (75.0%),右側13人 (25.0%),比率は3:1であった。合併症を有する症例は64人 (43.2%) であった。
症例
  • 金崎 彩子, 乙丸 貴史, 隅田 由香, 小坂 萌, 原口 美穂子, 服部 麻里子, 村瀬 舞, 谷口 尚
    2015 年 40 巻 3 号 p. 233-242
    発行日: 2015/10/30
    公開日: 2015/12/16
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    口唇口蓋裂患者に対する補綴治療は,審美性や発音,咀嚼機能の回復といった一般補綴治療と共通の目的に加え,歯科矯正治療後の歯および歯槽弓の後戻りの防止,上下顎咬合負担能の均等化,残遺孔を伴う症例に対する瘻孔閉鎖なども目的として行われる。東京医科歯科大学歯学部附属病院顎義歯外来では,1979年に顎口腔機能治療部として発足して以来約35年にわたり,顎顔面補綴治療の一分野として口唇口蓋裂患者の補綴治療を行ってきた。今回外来発足初期に,固定性または可撤性ブリッジおよび可撤性の床であるオブチュレータ,プランパーにて最終補綴治療を行った口唇口蓋裂患者4名について,25年以上にわたり経過観察することができたので報告する。
    症例1:左側口唇口蓋裂。両側上顎中切歯,犬歯,左側上顎第一小臼歯を支台歯とした硬質レジン前装冠による固定性ブリッジ,口蓋側にオブチュレータを装着。31年間経過観察。
    症例2:両側口唇口蓋裂。両側上顎中切歯,第一小臼歯,右側上顎犬歯,左側上顎第二小臼歯を支台歯とした硬質レジン前装冠による固定性ブリッジ,口蓋側にオブチュレータ,唇側にプランパーを装着。29年間経過観察。
    症例3:両側口唇口蓋裂。両側上顎中切歯,犬歯,左側上顎第一小臼歯を支台歯とした硬質レジン前装コーヌステレスコープ冠による可撤性ブリッジ,口蓋側にオブチュレータ,唇側にプランパーを装着。29年間経過観察。
    症例4:左側口唇口蓋裂。右側上顎中切歯,側切歯,左側上顎犬歯,第一小臼歯を支台歯とした陶材焼付鋳造冠による固定性ブリッジおよび口蓋側にオブチュレータ,唇側にプランパー装着。26年間経過観察。
    4症例とも歯列の後戻りは認められず,補綴装置は現在まで長期間有効に機能している。
  • 奥村 慶之, 井上 真一, 池田 浩子
    2015 年 40 巻 3 号 p. 243-247
    発行日: 2015/10/30
    公開日: 2015/12/16
    ジャーナル 認証あり
    先天性口唇瘻孔はまれな先天性疾患であり発生頻度は0.001%といわれている。発生部位は下口唇に多いが,上口唇に生じるものは極めてまれとされている。また他の先天異常を合併することが知られており,先天性口唇瘻孔の部位とその他の先天異常の有無に着目した分類が存在する。症状はさまざまであるが無症状で経過することも多い疾患である。われわれは上口唇正中に生じた口唇瘻孔の1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。症例は17歳男子。生下時より上口唇の正中に陥凹を認めており,0歳時に上口唇の凹みが大きく腫脹し,某形成外科で口腔内から切開ドレナージを受け消褪した。その後は,しばしば分泌物を認めたとのことであった。17歳になり審美的障害を感じ当院外来を受診した。局所麻酔下に摘出し良好な結果を得た。
Japancleft委員会報告
  • ―日本口蓋裂学会Japancleft委員会活動報告―
    藤原 百合, 鈴木 恵子, 齋藤 功, 須佐美 隆史, 朝日藤 寿一, 槇 宏太郎, 吉村 陽子, 鈴木 茂彦, 小野 和宏, 後藤 昌昭
    2015 年 40 巻 3 号 p. 248-252
    発行日: 2015/10/30
    公開日: 2015/12/16
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    A seminar on the assessment of cleft palate speech hosted by the Japancleft Committee, Japanese Cleft Palate Association, was held at the University Hospital and the Sanjo Conference Hall, the University of Tokyo on January 31 and February 1, 2015. The purpose of the seminar was to increase awareness of the issues on standardized speech assessment among Japanese speech and language therapists and researchers in the field, and to propose a standardized system which is compatible with international approaches. A training protocol for valid and reliable assessment is to be developed, taking lessons from experiences in the UK and Ireland. Dr. Debbie Sell and Dr. Triona Sweeney, who developed the Cleft Audit Protocol for Speech-Augmented (CAPS-A) and a training package, were invited as lecturers at the seminar. The number of participants was 134, including 67 speech therapists, 57 dentists, and 10 plastic surgeons.
    The questionnaire survey at the end of the seminar revealed that the importance of developing a standardized assessment system in Japan was fully recognized. From now on, efforts to develop a standardized assessment system will be continued by the working group in the Japancleft Committee.
国際委員会報告
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