日本口蓋裂学会雑誌
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原著
口蓋床の形状が口蓋裂児の吸啜に及ぼす影響
松原 まなみ落合 聡中村 由紀早﨑 治明
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ジャーナル 認証あり

2018 年 43 巻 3 号 p. 209-215

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抄録

健常乳児の口蓋には吸啜窩が存在し,吸啜時に乳首を固定して哺乳を円滑にする役割を果たしている。口蓋裂児の哺乳機能を補うために口蓋床を装着する治療が行われるが,我々は口蓋裂児の口蓋形態を可能な限り健常児に近づけることで吸啜運動が活発になり効果的な吸啜が出来るようになるのではないかと仮説を立て,口蓋床に吸啜窩を付与するという改良を試みた。
本研究の目的は口唇口蓋裂児の哺乳が円滑になることを目指し,従来の口蓋床(従来型)に吸啜窩を付与する(改良型)ことが吸啜時の舌運動に与える影響を検証することである。
対象は口唇口蓋裂以外に吸啜力に影響を及ぼす病態のない口唇口蓋裂児8例で,口蓋裂児6例,口唇顎裂児2例であった。
従来型と吸啜窩を付与した改良型で哺乳瓶哺乳を行い,超音波診断装置を用いて吸啜時の舌運動をB-modeで撮影した。解析にはDITECT社製,動画解析プログラム(DippMotionPro)を使用した。画像の舌表面に8箇所の計測点を設けて経時的に追尾させ,連続で得られた10吸啜波形について,各点の変位量と吸啜周期を計測し,吸啜窩付与前後で比較した。
舌の総変位量は吸啜窩付与前・後で平均23.4±0.9mmから24.7±2.3mmへ増加した。吸啜窩付与により吸啜周期は0.78±0.04sから0.82±0.02sへ延長し,吸啜周期は安定した。改良型口蓋床で舌の変位量が増加したことから,口蓋床に吸啜窩を付与することは哺乳効率の向上に寄与する可能性が示唆された。

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© 2018 一般社団法人 日本口蓋裂学会
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