2020 年 45 巻 1 号 p. 12-15
背景:小児は,生理学的に安静時酸素消費量が多い割に機能的残気量が少ないことや,解剖学的には頭部が大きいのに比して頸部は短く,小さな鼻孔,大きな舌,扁桃が肥大しているために,気道閉塞や呼吸抑制,低酸素症を引き起こしやすいといわれる。また小児の鎮静時心停止の頻度は全身麻酔下における頻度と同等といわれ,鎮静下の抜糸はリスクが高いことで知られている。一方,非鎮静下の抜糸は,拘束や苦痛を伴い患児,家族ばかりでなく医療者にも負担となっている。 目的:当科では口唇裂一次修正術,および二次修正術の術後抜糸を,手術室にて全身麻酔下に実施している。計画的入院による全身麻酔下抜糸の内容について考察し,工夫点について報告する。 対象・方法:2008年1月より2018年12月までの11年間に当科で行われた口唇裂一次修正術,および二次修術22例のうち9例で全身麻酔下の抜糸を行った。術前より全身麻酔下の抜糸を説明し,同意を得た症例に対して実施した。 麻酔方法,麻酔時間,抜糸処置の時間,合併症について診療記録を基に後向きに調査を行った。 結果:麻酔方法は全例GOS(Gas,Oxygen,Sevoflurane:笑気ガス,酸素,セボフルレン)であった。麻酔時間の平均値は13分43秒,抜糸処置の時間の平均値は6分27秒であった。心停止,覚醒遅延や呼吸器関連などの重篤な合併症は認めなかった。 結論・考察:麻酔状態の患者観察に慣れ,気道確保技術に最も優れている麻酔科医の管理のもとで行われる抜糸は,自科管理の鎮静下抜糸と比較して安全性が担保される。また,あらかじめ決められた日程で終了するため,医療者だけでなく,患児,および患者家族の肉体的,心理的負担を軽減する効果があると思われた。