日本口蓋裂学会雑誌
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原著
口唇形成術時に施行する軟口蓋癒着術が片側性唇顎口蓋裂患者の上顎形態へ与える影響
合島 怜央奈岩本 脩平檀上 敦山下 佳雄
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2023 年 48 巻 1 号 p. 20-26

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抄録

【目的】口蓋形成術は,軟口蓋形成による鼻咽腔閉鎖機能獲得を付与するが,顎発育を抑制する。軟口蓋癒着術(velar adhesion:VA法)は,軟口蓋の披裂縁粘膜を切開して縫合することで裂幅の拡大を抑止する。これにより,口蓋形成時の裂幅が狭くなり,侵襲の少ない手術を可能にする。当科では片側性唇顎口蓋裂(UCLP)症例に対して口唇形成術時にVA法を実施し,1歳6ヶ月時にpushback法による口蓋形成術を実施している。VA法が顎発育に与える影響に関しては明確になっておらず,本研究はVA法が口蓋形成術までの顎発育に与える影響について検証することを目的とした。また,哺乳床の使用期間についても併せて検討を加え,両者の上顎歯槽弓形態に与える影響について考察した。
【方法】佐賀大学医学部附属病院歯科口腔外科でpushback法による口蓋形成術を施行したUCLP患者(VA(+)群:11例,VA(-)群:10例)について,口唇形成術および口蓋形成術の手術時年齢,VA法術後からの哺乳床装着期間を診療録より後方視的に調査した。また,1歳6ヶ月時の上顎歯列弓模型を計測し,VA法が歯列弓長径,歯列弓幅径,歯列弓対称性,顎裂幅,口蓋裂幅に与える影響を検証した。
【結果】VA有無の2群において,口唇形成術および口蓋形成術での手術時年齢に差はなかった。口唇形成術後の哺乳床の平均使用期間は,VA(+)群では5.8ヶ月で,VA(-)群の12.3ヶ月の半分以下であった。VA法は歯列弓長径,歯列弓幅径の抑制効果は示さず,VA実施の有無に関わらず口蓋形成術時には顎裂幅は縮小し,さらに左右対称な歯槽形態へ誘導されていた。VA(+)群では硬口蓋後端の裂幅が6.02mmと有意に縮小していた。
【結論】VA法は口蓋形成時に口蓋裂幅を縮小し,侵襲の少ない口蓋形成術を可能とすることが示唆された。口蓋形成術時点では顎発育への抑制効果は示さず,左右対称な上顎歯槽弓形態を示した。長期的な言語機能,顎発育や咬合機能にあたえる影響に関しては今後の検証が必要である。

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