日本口蓋裂学会雑誌
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48 巻, 1 号
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総説
  • —咬合評価を中心に—
    須佐美 隆史, 佐藤 嘉晃, 奥本 隆行, 齋藤 功
    2023 年 48 巻 1 号 p. 1-11
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/27
    ジャーナル 認証あり
    口唇裂・口蓋裂患者に対する治療は,外科,矯正歯科,音声言語などの関連各科による長期にわたるチーム医療が行われる。治療の質向上や標準化を目指すには,多施設共同研究により各施設が治療結果を持ち寄り治療方法の違いを知り,科学的に治療結果を評価することが重要である。また,特定の治療の効果を評価するための症例数確保にも多施設共同研究は有利である。こうしたことから1980年代よりEurocleft, Dutchcleft, Americleft, Scandcleftなどの多施設共同研究が世界中で進められてきた。我が国においても2000年代に入ってから多施設共同研究の機運が高まり,2009年には日本口蓋裂学会にJapancleft委員会が設置され活動を続けている。
    多施設共同研究の意義は治療結果による施設のランク付けではなく,異なる治療プロトコールを知ること,科学的に治療結果を評価することを通じて情報を共有し,安全・確実で患者負担の少ない治療方法を模索することにあると思われる。本稿では,咬合評価の結果を中心に,これまでの世界および日本における多施設共同研究の流れを紹介し,今後の展望について考える。
原著
  • 廣田 友香, 上田 晃一, 木野 紘美, 岡本 豊子, 片山 美里
    2023 年 48 巻 1 号 p. 12-19
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/27
    ジャーナル 認証あり
    痕跡唇裂は一般的に不完全唇裂の中でも変形が軽微なものを指す。1964年にBrownが報告して以降,国内外で診断基準や治療法に関する複数の報告がなされてきた。しかし,半世紀以上の歴史があるにもかかわらず痕跡唇裂の治療では病変をどこまで切るべきか,いかに切らずにおくべきか未だ結論はない。Cupid弓の再建に局所の縫縮やZ-形成などで対応できない赤唇の高さの違いや裂の広がりなどの位置異常を伴った症例に対してRotation and advancement法(R-A法)を行っている。大幅な筋層の位置の変更が必要な症例は通常の唇裂形成術と同様に筋層切開が必要となる。しかし,過去20年の症例を振り返ると痕跡唇裂では全症例において筋層全層にわたる切離には至っていないことが分かった。本論文では,われわれが用いてきた術式とその結果の評価を報告する。岩波らの診断基準に従い痕跡唇裂と診断した全10例に対して,鬼塚の唇裂・口蓋裂分類,Yuzurihaらによる痕跡唇裂重症度分類を用いて裂型を細分類した。そして初回手術術式および修正手術の有無,その術式を調べた。さらに術前後の成績はThomsonの評価法を用い評価した。結果,鬼塚唇裂分類では2例が第2度唇裂第2級,残り8例は第2度唇裂第3級に分類され,Yuzuriha分類ではMinor-Form 3例,Microform 4例,Mini-Microform 3例に分類された。鼻腔底から口唇全長に及ぶ切開を加えたものは7例で,うち5例はR-A法を行っており残り3例は部分切開のみを行った。全例において口唇全層に及ぶ切開は行わず,連続性の保たれていた深部筋層は温存した。口輪筋の縫合は切開の範囲に関わらず,浅部筋層の離開や菲薄化を認めた6例で施行した。長期経過の中で追加手術を施行したものは4例で,うち2例はさらにもう一度追加手術を行っている。Thomson評価は全例において術前後で著明に改善していた。これらの結果よりわれわれは現在,瘢痕ではなく正常な筋肉で連続性の保たれている筋層は温存して口唇形成を行うことが侵襲も少なく最良と考えて治療を行っている。
  • 合島 怜央奈, 岩本 脩平, 檀上 敦, 山下 佳雄
    2023 年 48 巻 1 号 p. 20-26
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/27
    ジャーナル 認証あり
    【目的】口蓋形成術は,軟口蓋形成による鼻咽腔閉鎖機能獲得を付与するが,顎発育を抑制する。軟口蓋癒着術(velar adhesion:VA法)は,軟口蓋の披裂縁粘膜を切開して縫合することで裂幅の拡大を抑止する。これにより,口蓋形成時の裂幅が狭くなり,侵襲の少ない手術を可能にする。当科では片側性唇顎口蓋裂(UCLP)症例に対して口唇形成術時にVA法を実施し,1歳6ヶ月時にpushback法による口蓋形成術を実施している。VA法が顎発育に与える影響に関しては明確になっておらず,本研究はVA法が口蓋形成術までの顎発育に与える影響について検証することを目的とした。また,哺乳床の使用期間についても併せて検討を加え,両者の上顎歯槽弓形態に与える影響について考察した。
    【方法】佐賀大学医学部附属病院歯科口腔外科でpushback法による口蓋形成術を施行したUCLP患者(VA(+)群:11例,VA(-)群:10例)について,口唇形成術および口蓋形成術の手術時年齢,VA法術後からの哺乳床装着期間を診療録より後方視的に調査した。また,1歳6ヶ月時の上顎歯列弓模型を計測し,VA法が歯列弓長径,歯列弓幅径,歯列弓対称性,顎裂幅,口蓋裂幅に与える影響を検証した。
    【結果】VA有無の2群において,口唇形成術および口蓋形成術での手術時年齢に差はなかった。口唇形成術後の哺乳床の平均使用期間は,VA(+)群では5.8ヶ月で,VA(-)群の12.3ヶ月の半分以下であった。VA法は歯列弓長径,歯列弓幅径の抑制効果は示さず,VA実施の有無に関わらず口蓋形成術時には顎裂幅は縮小し,さらに左右対称な歯槽形態へ誘導されていた。VA(+)群では硬口蓋後端の裂幅が6.02mmと有意に縮小していた。
    【結論】VA法は口蓋形成時に口蓋裂幅を縮小し,侵襲の少ない口蓋形成術を可能とすることが示唆された。口蓋形成術時点では顎発育への抑制効果は示さず,左右対称な上顎歯槽弓形態を示した。長期的な言語機能,顎発育や咬合機能にあたえる影響に関しては今後の検証が必要である。
  • 国富 陽介, 志村 美智子, 泉 さや香, 越路 千佳子, 上岡 寛, 川又 均
    2023 年 48 巻 1 号 p. 27-33
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/27
    ジャーナル 認証あり
    【目的】顎裂部骨移植術(Alveolar Bone Grafting:ABG)は,歯槽形態の改善および顎裂部への永久歯の萌出誘導に有用な治療法として普及している。しかし,術後早期に移植骨の吸収が起こり,期待通りの効果が得られない場合もある。そこで,当科におけるABGの現状について調査し,予後不良症例における特徴を把握することで,将来の移植予後成績を向上させることを目的とし本研究を実施した。
    【方法】2008年4月から2020年3月までの13年間に獨協医科大学病院口腔外科を受診した患者のうち,ABGを実施した57人(65顎裂側)を対象とした。各症例に対して裂型,性別,移植時年齢,顎裂間距離を確認し,さらに,移植術後感染,創部し開,顎裂部側切歯欠如,顎裂部犬歯萌出の有無について調査した。骨形成不良群(再移植症例群)における特徴を抽出し,骨形成良好群と比較検討した。
    【結果】移植総顎裂数は65側であり,骨形成不良群には5側(7.7%)が該当し,内訳は唇顎口蓋裂で4側,唇顎裂で1側であった。骨形成不良群と骨形成良好群の各特徴を比較検討した結果,骨形成不良群では創部し開,顎裂部側切歯欠如の割合が有意に高く,平均顎裂間距離が有意に大きいことが明らかとなった。
    【考察】ABGにおいて良好な結果を得るためには,矯正歯科医師と口腔外科医師間の連携が必要不可欠である。推奨されている適切な年齢(犬歯萌出時期)に移植を依頼すること,創部し開および術後感染へ配慮することが重要である。さらに,顎裂部側切歯の可能な限りの保存や,過度な顎裂部の拡大を避けることが重要であることが示唆された。
  • 沖野 早苗, 森川 泰紀, 石井 武展, 坂本 輝雄, 西井 康, 渡邉 美貴, 吉田 秀児, 渡邊 章, 成田 真人, 中野 洋子, 石垣 ...
    2023 年 48 巻 1 号 p. 34-42
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/27
    ジャーナル 認証あり
    【目的】唇顎口蓋裂患者における顎顔面形態の特徴として,口蓋閉鎖手術に伴う術後性瘢痕組織によって,上顎骨の劣成長による反対咬合を呈することが多い。片側性唇顎口蓋裂を伴う骨格性下顎前突患者のうち,本格矯正治療の方針が外科的矯正治療の適用となった歯・顎顔面形態の特徴の検討を行ったので報告する。
    【方法】東京歯科大学千葉歯科医療センター矯正歯科に来院した片側性唇顎口蓋裂患者のうち,本格矯正治療の治療方針が外科的矯正治療を選択した患者20名を手術群,対照として矯正単独治療を選択した患者27名を矯正群とした。側面頭部エックス線規格写真からセファロ分析を行い,両群の初診時,再診断時,初診時と再診断時の変化量を比較した。
    【結果】初診時,上顎骨の前後的位置関係に有意差は認められなかった。矯正群と比較し,手術群の前頭蓋底は短く,オトガイ部は前方位を呈し,ハイアングルであった。再診断時,手術群の下顎枝,下顎骨体は有意に長く,Wits appraisal,ANB angle,Angle of convexityの項目において有意差が認められ,手術群は,上下顎骨の前後的位置関係の不調和が大きかった。成長変化量においてSNB angle,N-perpendicular to Pogにおいて有意差が認められ,下顎骨が前方位であった。前歯のoverjetは初診時,再診断時,変化量のすべてにおいて有意差が認められた。
    【結論】片側性唇顎口蓋裂を伴う骨格性下顎前突患者の外科的矯正治療が選択される顎顔面形態の特徴として,上顎骨の前後的な位置に影響は受けず,ハイアングルを示し,前頭蓋底の短い者であった。初診時より前方位を呈していた下顎骨がより成長し,上下顎骨の前後的位置関係の不調和が著しく,前歯のoverjetがマイナスに大きい者が外科的矯正治療の適用となった。下顎骨の成長を注意深く観察する必要があると示唆された。
統計
  • 遠藤 千晶, 西村 壽晃, 五十嵐 薫
    2023 年 48 巻 1 号 p. 43-51
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/27
    ジャーナル 認証あり
    東北大学病院顎口腔機能治療部における口唇裂・口蓋裂患者(以下,CLP)に対する歯科矯正用アンカースクリュー(以下,OAS)の使用実態を把握するため,2014年4月から2021年3月の7年間にエッジワイズ装置による本格矯正歯科治療を行った患者について,非裂患者(以下,non-CLP)と比較して臨床統計学的調査を行った。
    1.対象となるCLP群は62名(男女比1:1),non-CLP群は53名(男女比1:2.5)であった。
    2.CLP群の裂型分布は唇裂6.5%,唇顎裂27.4%,唇顎口蓋裂43.5%,口蓋裂22.6%であった。不正咬合の種類は反対咬合,叢生,上顎前突の順で多かった。Non-CLP群の不正咬合の種類は上顎前突,反対咬合,先天欠如の順で多かった。
    3.平均植立年齢はCLP群17.1歳,non-CLP群は19.2歳で,CLP群はnon-CLP群より有意に若年であった。
    4.植立部位は上顎臼歯部頬側が最も多く,CLP群で51.7%,non-CLP群で40.6%を占めていた。次いで下顎臼歯部頬側が多かった。
    5.対象となるOASは計331本であり,CLP群の176本の内訳は植立成功143本,脱落33本で全体の成功率は81.3%であった。Non-CLP群の155本の内訳は植立成功124本,脱落31本で成功率は80.0%であった。CLP群とnon-CLP群との間で成功率に有意差は認められなかった。
    6.各群において,植立部位,年齢,性別,OASの直径や長さによる成功率の有意差は認められなかった。また,CLP群とnon-CLP群との間で,それぞれの要因別成功率に有意差は認められなかった。
  • 佐井 新一, 岐部 俊郎, 石畑 清秀, 手塚 征宏, 大河内 孝子, 西原 一秀, 平原 成浩, 松本 幸三, 伊藤 雅樹, 三村 保, ...
    2023 年 48 巻 1 号 p. 52-60
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/27
    ジャーナル 認証あり
    当科開設以来,1981年から2021年までの40年間に鹿児島大学口腔顎顔面外科を受診した口唇裂・口蓋裂一次症例1,446名について臨床統計的観察を行った。
    結果は以下の通りである。
    1.40年間に当科を受診した一次症例は1,446名であった。
    2.裂型別患者数では,唇裂が483名(33.4%),唇顎口蓋裂が551名(38.1%),口蓋裂が412名(28.5%)であった。
    3.男女比は,男性748名,女性698名で1.07:1であった。
    4.初診時年齢は,生後から20歳の間において,生後1ヶ月未満が939名(65.0%)で最も多かった。
    5.出生時体重は,平均2,936.2gで,2,500〜2,999gが527名(37.0%)で最も多かった。
    6.患者の居住地は,鹿児島県内が1,130名(78.2%)であり,鹿児島県外が316名(21.8%)であった。
    7.初診時の来院経路(紹介元医療施設)は,院外の産科・婦人科からの紹介が最も多く,次いで小児科・周産期・母子センターからの紹介が多かった。
    8.先天異常を合併した患者は,134名(9.3%)に認められた。
    9.2006年から開始した往診数,出生前カウンセリング数は計276件で,2011年以降,増加してきた。出生前カウンセリングを行うことで,家族への精神的負担を軽減できた。
    10.裂型別の症例数は,いずれの期間も唇顎口蓋裂,唇裂,口蓋裂の順であった。男女比は,Ⅰ期,Ⅲ期,Ⅳ期で男性に多く,Ⅱ期は女性に多くみられた。初診時年齢は,Ⅰ期では生後1ヶ月未満の受診が半数以下であったが,Ⅱ期,Ⅲ期,Ⅳ期は約70%程度が生後1ヶ月以内に受診していた。 2,500g未満の低出生体重児の割合は,Ⅰ期10.4%,Ⅱ期16.8%,Ⅲ期21.4%,Ⅳ期12.4%であった。近年では,小児科・周産期・母子センターからの紹介が多くなっていた。先天異常の合併の割合は,口蓋裂が5.1%で,次いで,唇顎口蓋裂が3.1%,唇裂が1.0%であった。
症例
  • 彦坂 信, 金子 剛, 佐藤 裕子, 小林 眞司, 鈴⽊ ⿇由美, 福島 良⼦, 吉⽥ 帆希
    2023 年 48 巻 1 号 p. 61-68
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/27
    ジャーナル 認証あり
    口蓋裂の術後に,いったんは良好な鼻咽腔閉鎖機能を獲得したものの,成長に伴い鼻咽腔閉鎖機能不全を生じた患者に対して,自家脂肪注入術が有効であると報告されている。国立成育医療研究センターでは2019年より,安全性と有効性の評価を目的として前向き研究を開始しており,現在までに1名に手術を施行した。発声時の鼻咽腔間隙の狭小化が得られ,鼻咽腔閉鎖機能は対面評価で軽度不全からごく軽度不全に改善した。本治療は安全に施行可能であり,これまでは侵襲と効果のバランスがとれた最適な治療選択肢がなかった患者群に対して,有望な治療法であると考えられた。
  • 水野 友香, 谷川 千尋, 村田 有香, 山城 隆
    2023 年 48 巻 1 号 p. 69-78
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/27
    ジャーナル 認証あり
    口唇裂・口蓋裂を有する患者では,上顎骨の三次元的な劣成長による前歯部反対咬合,臼歯部交叉咬合,咬合平面の傾斜を呈することが多い。今回,上顎歯列弓の狭窄を伴う唇顎口蓋裂患者において,当院にて唇顎口蓋裂の一貫治療を行ったことにより,調和のとれた顔貌を獲得するとともに,良好な咬合関係が得られた。
    患者は左側唇顎口蓋裂を有する初診時年齢6歳1ヶ月の男児で,骨格性の問題は認めず,上顎歯列弓は狭窄しており前歯部反対咬合および両側臼歯部交叉咬合を呈していたため,第Ⅰ期治療では上顎歯列の側方拡大を行い,顎裂部骨移植術を施行した。その後成長観察を行っていたが,下顎骨の前方成長に伴い,第Ⅱ期治療開始時には,上顎骨の後方位および下顎骨の前方位による骨格性3級であった。側貌はコンケイブタイプであり,中顔面は陥凹し,下口唇は前突していた。口腔内所見では,overjetは-4.2mmと小さく,overbiteは3.7mmであり,上顎左側側切歯は矮小歯であった。上下顎歯列の正中は不一致であった。また,軟口蓋の長さが短く鼻咽腔閉鎖機能不全を認めた。第Ⅱ期治療ではマルチブラケット装置により上下顎歯列の排列を行った後,上顎左側側切歯を抜去し,上下顎骨切り術を行った。上顎骨はLe Fort Ⅰ型骨切り術により前方移動および臼歯部の上方移動を行った。下顎骨は下顎枝矢状分割術(sagittal split ramus osteotomy;SSRO)により,前方移動を行った。その後,術後矯正治療で咬合の緊密化を図り,オトガイ形成術,口唇外鼻修正術,咽頭弁形成術を行った。Le Fort Ⅰ型骨切り術による前方移動,SSROによる下顎骨の後方移動に伴い,中顔面の陥凹感は改善し,下口唇は後退した。良好な側貌,咬合状態および鼻咽腔閉鎖機能の改善が得られた。
国際学会準備委員会・国際委員会報告
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