【目的】顎裂部骨移植術(Alveolar Bone Grafting:ABG)は,歯槽形態の改善および顎裂部への永久歯の萌出誘導に有用な治療法として普及している。しかし,術後早期に移植骨の吸収が起こり,期待通りの効果が得られない場合もある。そこで,当科におけるABGの現状について調査し,予後不良症例における特徴を把握することで,将来の移植予後成績を向上させることを目的とし本研究を実施した。
【方法】2008年4月から2020年3月までの13年間に獨協医科大学病院口腔外科を受診した患者のうち,ABGを実施した57人(65顎裂側)を対象とした。各症例に対して裂型,性別,移植時年齢,顎裂間距離を確認し,さらに,移植術後感染,創部し開,顎裂部側切歯欠如,顎裂部犬歯萌出の有無について調査した。骨形成不良群(再移植症例群)における特徴を抽出し,骨形成良好群と比較検討した。
【結果】移植総顎裂数は65側であり,骨形成不良群には5側(7.7%)が該当し,内訳は唇顎口蓋裂で4側,唇顎裂で1側であった。骨形成不良群と骨形成良好群の各特徴を比較検討した結果,骨形成不良群では創部し開,顎裂部側切歯欠如の割合が有意に高く,平均顎裂間距離が有意に大きいことが明らかとなった。
【考察】ABGにおいて良好な結果を得るためには,矯正歯科医師と口腔外科医師間の連携が必要不可欠である。推奨されている適切な年齢(犬歯萌出時期)に移植を依頼すること,創部し開および術後感染へ配慮することが重要である。さらに,顎裂部側切歯の可能な限りの保存や,過度な顎裂部の拡大を避けることが重要であることが示唆された。