抄録
昭和41年1月より昭和60年1月までの19年1か月間に,東京医科歯科大学歯学部付属病院第1口腔外科を訪れた唇・顎・口蓋裂を伴う28組の双生児について臨床統計的観察を行った.28組のうち異1生双生児の4組は2卵性と診断し,また,残りの24組の同性双生児のうち15組については血液型,血清型による卵性診断を行い,13組が1卵性,2組が2卵性と診断された.裂の発現様式をみると,唇(顎)裂・唇顎口蓋裂については1卵性では9組中4組,2卵性では6組中1組が同胞発現例であり,口蓋裂については1卵性では4組中3組が同胞発現例であった.出生時体重に関しては,一児発現例の1卵性双生児5組ではいずれも罹患児が非患同胞より少なく,同胞発現例で裂型の異なる5組中4組では裂の重度なものが軽度な同胞より少なかった.一方,昭和16年から現在までの本邦における唇・顎・口蓋裂を伴った双生児の報告症例は77組であるが,これらを文献的に検討したところ,卵性診断の精度の高い症例は33組であった.これらについて分析した結果,唇(顎)裂・唇顎口蓋裂の同胞発現例の比率は1卵性双生児では56.3%,2卵性双生児では10.0%であり,口蓋裂の同胞発現例の比率は1卵性双生児では66 .7%,2卵性双生児では0%であった.また,自験例のうち,11組の同胞発現例において,7組は裂の部位,程度が異なっていた.以トの結果より,唇・顎・口蓋裂の発生に関して,1卵性双生児においては受精卵が2個に分離する以前の環境的要因あるいは遺伝的要因により裂奇形に罹患しやすい素因が生じる可能性が高いものと考えられた.また,遺伝的に同一の1卵性双生児においても,同胞のうち1児にのみ裂が発現したり,同胞発現例でも同胞間の裂の重症度に差がみられることが明らかとなり,この原因として,子宮内でなんらかの環境因子が裂を顕在化させ,裂の重症度を決定する因子として作用する可能性が示唆された.