日本口蓋裂学会雑誌
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側音化構音の音響学的評価
高橋 浩二
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1986 年 11 巻 2 号 p. 178-193

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抄録
口蓋裂患者に比較的多くみられる異常構音の一種である側音化構音に伴なう歪み音を音響学的に定量評価することを目的として研究を行った.被検者は早期手術により良好な鼻咽腔閉鎖機能が得られ, かつ歯列不正の軽度な口蓋裂術後症例6例と機能的側音化構音患者3例, および3群の年齢群からなる健常者24例の計33例で, 検査音としては側音化構音の認められる頻度が高い /∫i/・/t∫i/ と同音のそれぞれが臨床的に異聴されやすい正常構音の/ci/・/ki/を選んだ.予備実験としてソナグラフ(KAY社DIGITAL SONAGRAPH 7800)による分析を行ったところ, /∫i/・/t∫i/の音部のセクションにおいて正常構音ではおよそ4kHz以上の高域で周波数成分が大きく存在するのに対し, 側音化構音ではスペクトルのレベルは周波数軸上でほぼ一様であることが認められた.この子音部のスペクトル特性を定量的に評価するためにマイクロコンピュータ(NEC社PC-9801E)を利用して開発した音声分析システムにより以下の手順で分析を行った.まず, 取り込んだ音声信号より子音部を切り出し, ケプストラム手法を応用して60dBで正規化したスペクトル包絡を抽出し, つづいて設定した高低2つの帯域におけるスペクトル包絡の平均レベルを求め, この2つの帯域の平均レベルの差(SES:Spectral Envelope Score)によりその音を評価した.検査音別に子音部のSESを変数としたヒストグラムを表したところ, 側音化構音の /∫i/・/t∫i/は正常構音の同音とは明らかに異なる範囲に分布し, むしろ臨床的に異聴されやすい正常構音の/cie・eki/とほぼ類似した範囲に分布することが確認され, SESが側音化構音の/∫i/・/t∫i/を定量評価するうえで, 有効な物理量の一つであることが示唆された.
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© 一般社団法人 日本口蓋裂学会
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