抄録
唇顎口蓋裂患者においては,上顎骨の劣成長のため補綴処置の際に上顎前歯の位置を天然歯よりも相対的に前突させ,上唇部の陥凹観の改善を計る場合が多い.このため,上唇は緊張状態となり,補綴装置に対しても常に圧が作用するものと考えられるが,口唇圧の補綴処置による変化,さらには,圧の変化が顎口腔系の諸機能,形態および補綴装置に対して与える影響については不明な点が多い.
そこで本研究では,これらの点について明らかにする目的で,次のような検討を行った.すなわち,唇顎口蓋裂を有し,外科処置ならびに矯正処置を経て補綴処置を行った男性1名,女性2名(以下口蓋裂患者とする)と唇顎口蓋裂を有さない成人男性3名(以下健常者とする)の計6名を被験者として選び,上顎両側中切歯の唇面中央部に超小型圧力センサーを貼付し口唇圧を測定するとともに,両側咬筋ならびに上唇部口輪筋の筋活動の測定を行った.
測定は,安静状態の他,最大開口,上下口唇の接触,上唇下制,口角後方牽引,口唇突出,発音,嚥下,ピーナッツ咀囑の各運動時に行い,その際の口唇圧の発現時期ならびに圧の大きさと力積値,ならびに咬筋,口輪筋の筋活動との関連について口蓋裂患者と健常者を比較検討し,以下のような結果を得た.
1)各運動時の口輪筋の活動に関しては,口蓋裂患者では,健常者に比べ微弱であった.
2)口唇圧の最大値に関しては,口蓋裂患者では,口唇突出時や発音時などにおいて大きな圧を記録した.
3)口唇圧の力積値に関しては,口蓋裂患者において上唇下制時ならびに口唇突出時に,健常者に比べ大きな値が得られた.