抄録
喫煙による発がんの危険度に個人差があるかどうかの問題を, 遺伝子解析を含む新しい公衆衛生学の手法で解析する.本論では, 広く5つの遺伝子GSTM1, GSTT1, GSTP1, NAT1, NAT2を対象として取り上げ, これらの遺伝子が, 胃がん, 直腸結腸がん, 尿路上皮がんの3つのがんの喫煙によるがん感受性の上昇にどういう影響を与えているかを調べる.結論として, 個人の持つ遺伝子の多形性の違いのために, 同じ喫煙量でも発がんのリスクが異なることが示される.とくに, GSTM1やNAT2と尿路上皮がんの関係は顕著で, GSTM1酵素活性の低い喫煙者の場合は, 活性の高い非喫煙者より, 平均して3.7倍も尿路上皮がんになりやすいし, NAT2酵素活性の低い喫煙者は, 10倍もリスクが高いことが明らかにされる.