日本口蓋裂学会雑誌
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口蓋裂術後瘢痕組織の分布
レーザードップラー血流計による解析の考案
石川 博之三崎 浩一大坪 弘人土門 東香上野 拓郎安藤 葉介友近 晃中村 進治工藤 元義福田 博井上 農夫男
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1995 年 20 巻 2 号 p. 39-51

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抄録
口蓋形成手術により発生する骨露出創と,その治癒過程で生じる瘢痕組織は,上顎骨の成長発育に対して抑制因子として作用し,歯列歯槽形態の狭窄をもたらすことが報告されている.またこの瘢痕組織は,矯正治療においても酋列弓の拡大を困難なものとし,さらに治療後のいわゆる後戻りの大きな要因になると考えられている.したがって,口蓋裂患者の口蓋部に存在する術後瘢痕組織の分布を把握することは,矯正治療における治療方針の作成や予後の推定の上で,極めて重要である.このような瘢痕組織の分布は個々の患者で多様であると考えられるが,その部位や広がりを肉眼で詳細にとらえるには限界があり,現状では有効な方法は存在しない.そこで,レーザードップラー血流計を応用して,口蓋部に存在する術後瘢痕組織の分布を解析する方法を考案し,さらに本法の有効性について検討を加えた.その結果,以下の知見を得た.
1.非破裂者において,本計測系により大口蓋孔相当部粘膜の加圧にともなう口蓋粘膜各部の血流量変化の計測を行ったところ,3009の荷重で口蓋全域にわたり血流量の減少が認められた.
2.口蓋裂患者では大口蓋孔相当部粘膜を3009の荷重で加圧しても,口蓋前方部で血流量の変化が認められなかった.また症例によっては,中央部および後方部の左右側においても血流量の変化が認められなかった.
3.口蓋裂患者の埋伏歯の開窓術の際に得られた口蓋粘膜の組織像の観察から,本計測系は組織血流動態の違いに基づき,瘢痕組織と正常粘膜組織を明確に識別できることが確認され,口蓋部の術後瘢痕組織の分布の解析に有効であることが示唆された.
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© 一般社団法人 日本口蓋裂学会
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