抄録
タイ国チュラロンコン大学との共同研究を行う機会を得て,片側性唇顎口蓋裂児の口唇形成術前後における歯槽弓形態の三次元的変化について比較・検討を行った.タイの資料(タイ群)は,口唇形成術前よりactiveplateを用いてsegmentの整形を行っているが,東京医科歯科大学の資料(本学群)では,plateは用いているがsegmentの整形を行っていない.資料には両群共,6名の患児より得られた計30個の上顎歯槽弓石膏模型を用いた.タイ群ではplate装着前および口唇形成術前後の3ステージ,本学群では口唇形成術前後の2ステージである.これらの表面形状を,レーザー光による非接触式三次元模型計測装置(ユニスン社製)にて計測し,画像処理を行った.得られた画像上で基準点を設定し,これを基に三次元的な重ね合わせを行った.その後,等幅切断線による立体表示によって,各ステージにおける変化を視覚的・立体的に捉えるとともに,歯槽弓基底部における幅径(W)および長径(L),その比(L/W)やsegmentのなす角度を計測し,両群間における差異を検討した.その結果,タイ群では水平方向の観察からplate装着後に顎裂幅が減少していることが分かった.また前頭方向の観察から術後に口蓋弓が浅く平坦化していた.しかし本学群では,水平方向の観察で6例中4例は顎裂幅にほとんど変化が無く,前頭方向の観察では術後に口蓋弓が深く複雑な形態に変化することが分かった.また歯槽弓形態は,タイ群ではWが,本学群ではLが有意に増加を示し,特にタイ群ではplate装着後にL/Wの値が減少していた.この値をタイ群,本学群の間で比較するとタイ群が有意に小さく,ステージが進むに従いタイ群の歯槽弓は幅広で長径の短い形態に,反対に本学群ではより長径が長く幅の狭い形態となる傾向が認められた.