日本口蓋裂学会雑誌
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口蓋裂患者における上顎前方牽引装置の治療効果
入江 丈元石川 博之飯田 順一郎
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2001 年 26 巻 1 号 p. 16-22

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抄録

Hellmanの咬合発育段階皿A期に矯正治療を開始した硬軟口蓋裂患者37名(男子10名,女子27名)を研究対象として,同裂型患者に対する上顎前方牽引装置の治療効果について検討を加えた.フェイシャルマスクタイプの上顎前方牽引装置により.治療を行った17名(男子7名,女子10名)をMPA群,condylarpull chin capを用いて治療を行った20名(男子3名,女子17名)をCC群とし,側面頭部X線規格写真を用いて両群の約2年の治療期間における顎顔面の成長変化を分析した.また,MPA群のうち7名(男子3名,女子4名)については,乳歯列期の側面頭部X線規格写真も用い,乳歯列期の上顎骨の成長変化とその後の治療による変化とを比較した.これらにより,以下の知見が得られた.
1)MPA群とCC群の治療開始前の顎顔面形態を比較したところ,MPA群でより下顎骨の前方位が強く顎関係の不調和も大きかったが,上顎形態には明らかな差は認められなかった.
2)MPA群とCC群の治療による顎顔面の形態変化を比較したところ,上顎骨についてはMPA群で成長方向はより前方であり,また前方成長量も大きく,上顎前方牽引装置による成長促進効果が確認された.しかし,下顎骨の前後的位置および顎関係の変化量については,両群間で明らかな差は認められなかった.
3)MPA群のうち7名における上顎骨の成長変化から,乳歯列期において,中顔面部の前方成長がみられた症例は,その後の上顎前方牽引装置による治療期間中においても良好な前方成長がみられた.このことから硬軟口蓋裂患者に対する本装置の治療効果は,個体のもつ上顎骨の成長発育能に依存する可能性が示唆された.

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© 一般社団法人 日本口蓋裂学会
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