抄録
目的:近年,顎裂部に対する歯科インプラント治療の報告がみられるようになってきた.しかし,従来の報告には多数例を長期間,詳細に検討した報告は見当たらない.本研究は,顎裂部への歯科インナラント治療の有用性をアンケート形式による多施設共同研究により明らかにすることを目的とした.
方法:アンケートでは,対象患者の一般的事項,骨移植,インプラント手術,補綴治療,インプラント周囲の軟組織に対する手術,インプラントの残存率,患者の満足度などを質問した.結果:研究には11施設が参加した.登録患者は103名(男性47名,女性56名,片側性78名,両側性25名)であった.インプラント埋入前骨移植は全例自家骨だった.移植時期は,インプラント埋入5か月~121か月前(平均32か月前)であった.インプラント埋入時の患者年齢は9歳8か月~61歳(平均22歳7か月)であった.大半の使用インプラントの直径は3.25~4.0mm,長さは13~15mmであった.24名には,埋入時同時骨移植が施行されていた.軟組織に対する手術は19名に行われた.上部構造は,全て固定式であった.累積残存率は5年経過時に98.6%,10年経過時に95.4%であった.ほとんど全ての患者が治療に満足していた.
結論:以上の結果より,本治療法が顎裂の治療法の一つとして,きわめて有用であることが明らかとなった.