日本口蓋裂学会雑誌
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エレクトロパラトグラフィを用いた構音のホームトレーニングの効果
通常の訓練で改善が難しかった症例について
山本 一郎井上 幸藤原 百合
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2006 年 31 巻 3 号 p. 274-284

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抄録

口蓋化構音や側音化構音が通常の訓練で治り難かった両側性唇顎口蓋裂術後症例に,8歳4カ月から約1年間,エレクトロパラトグラフィ(EPG)の簡易トレーニング装置を川いて家庭における視覚的フィードバック訓練を行った.使用装置はWinEPG システム(Articulate Instruments Ltd.)とそのPortableTraining Unit:PTUである.
初回評価時,/t,ts/のEPGパターンは舌全体が歯茎部から硬口蓋にかけて広く接触していた./s/は聴覚的には摩擦音であったがEPGパターンを見ると歯茎部は完全に閉鎖しており,呼気は硬口蓋後方の臼歯部周辺から歯列に沿ってから流出していると推測された./∫,t∫/のEPGパターンは舌全体が口蓋に接触し呼気が正中から流出するのを妨げていた.
初回評価後,およそ1カ月おきにWinEPGで記録と分析を行って具体的な訓練目標を示し,毎日白宅でPTUを用いて練習をすることを課した.また地域における言語訓練でもPTUを活用した.練習開始後13カ月で目標音の改善を達成し,PTUを用いた訓練は終了となった.
3歳11カ月から4年以上,通常の構音訓練を続けても改善しにくかった舌運動の異常な習癖が,1年あまりの視覚的フィードバック訓練で改善したのは,訓練目標が具体的で練習効果が目に見えること,またPTUを自宅に持ち帰っての練習は,本人のみならず家族にも理解しやすく,双方のモチベーションが高まって自宅での反復練習を促したこと,によると思われる.
言語聴覚士にとっても練習効果を客観的に測定できる利点がある.今後EPGは従来の言語聴覚療法に加えて新たな訓練・分析方法になりうることが示唆された.

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© 一般社団法人 日本口蓋裂学会
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