日本口蓋裂学会雑誌
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31 巻, 3 号
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  • 片側症例の成長終了時側面頭部エックス線規格写真による評価
    高木 律男, 福田 純一, 小野 和宏, 飯田 明彦, 朝日藤 寿一, 寺田 員人, 齋藤 功
    2006 年31 巻3 号 p. 245-252
    発行日: 2006/10/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    口唇口蓋裂では,口蓋部の裂による鼻咽腔閉鎖機能不全のため吸畷障害,嚥下障害および言語障害が生じる.さらに,口蓋形成手術の実施時期および方法・手技いかんにより,上顎の発育障害,咬合不全が生じる可能性がある.口蓋形成術の目的は,これらの障害の改善および予防であり,手術法,手術時期の決定にあたっては,手術後の短期的な成否ばかりでなく長期的に生じる二次的障害をいかに回避するかについても考慮する必要がある.したがって,これらの目的が達成されたか否かについては,長期にわたり各年代における評価と適切な管理体制が必要である.
    そこで,今回私達は当院において実施している管理体制による上顎部の前後的および上下的成長への影響を評価することを目的に,成長がほぼ終了した56症例(以下TS群)を対象に側面頭部エックス線規格写真を用い骨形態の評価をおこなった.評価には,正常成人の基準値(飯塚・石川)との比較を用いるとともに,当科で本管理体制を採用するまでの1974年から1982年に行った一段階口蓋形成症例のうち資料の整った15例(以下PB群)を比較対照症例として用いた.その結果,TS群は正常成人に比較して若干の発育抑制が認められた.しかし,PB群に比較して上顎の前方への成長および上顎後縁の下方への成長の抑制は有意に軽度であった.
  • 平石 有, 馬場 祥行, 辻 美千子, 鈴木 聖一, 大山 紀美栄
    2006 年31 巻3 号 p. 253-260
    発行日: 2006/10/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    口唇口蓋裂症例においては,しばしば第二大臼歯の異所萌出,萌出遅延,あるいは埋伏がみられる.一方近年,口唇口蓋裂患者の上顎の劣成長を解決する一つの方法として,骨延長術が適用されている.骨延長術では上顎結節後方部の骨形成が期待される.そこで,RED systemを用いて上顎骨延長術を適用した口唇口蓋裂患者の,術前3カ月以内および術後12カ月以上経過したオルソパントモグラム,正面および側面頭部X線規格写真,CT,歯列模型等を資料として,術前に未萌出で明らかな萌出余地不足が認められた第二大臼歯14歯における,術後の萌出様相を検討した.この結果萌出様相の内訳は,口腔内に萌出を認めたものが8歯歯槽骨から萌出したものが2歯,歯槽骨内ではあるが萌出方向に移動したものが4歯で,すべての歯において萌出方向への移動を認めた.また,個々の症例においては,1)11歳11カ月時に上顎骨延長術を施行し,術前には上顎第二大臼歯の萌出余地不足が明らかであったが,術後に良好な位置に萌出したもの,2)15歳2カ月の上顎骨延長術施行時,既に歯根完成期であった上顎第二大臼歯が,16歳3カ月時に口腔内に萌出したもの,3)19歳5カ月から21歳0カ月の問に第二大臼歯の位置変化を認めなかったが,21歳0カ月時に上顎骨延長術を施行し,22歳3カ月時に口腔内に萌出開始したもの,等がみられた.以上より,上顎骨延長術による上顎結節後方の骨添加は,術前に不足していた第二大臼歯の萌出余地を獲得するのに有効であることが確認され,異所萌出や埋伏に対して,正常な萌出を誘導する可能性が示唆された.
  • 藤原 百合, 山本 一郎
    2006 年31 巻3 号 p. 261-266
    発行日: 2006/10/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    エレクトロパラトグラフィ(EPG)を言語臨床で活用して行く道を探ることを目的に,医学中央雑誌version 3で「パラトグラフ」をキーワードとして検索した39編の論文を対象として,我国におけるEPG関連の研究の動向を調査した.
    1.掲載雑誌は音声言語医学会誌が20%と最多だったが, 補綴,口腔外科,矯正歯科など歯科関連の雑誌が半数近くを占めていた.発行年は80年代が59%,90年代が26%,2000年代は15%と漸減していた.
    2.著者の専門域は歯科医師が51%,次いで言語聴覚十が44%であった.
    3.EPGを用いた目的は,構音時の舌運動の観察が大半であったが,EPGを用いた訓練経過やその効果に関するものは18%と少なかった.
    4.被験者は正常例(31%)に次いで,口蓋裂(26%)や口腔腫瘍(15%)など器質的構音障害例が多かった.
    5.使用機i器はリオン社のDPシリーズが79%を占めていた.
    6.EPGと併用された検査法は,音声の聴覚印象,音響分析,ビデオ,X線映画法,超音波断層法など多彩だった.
    我国において1980年代には世界に先駆けた多くの研究がなされていたが,次第に減少していることが分った.一方,英国ではEPGを用いた研究が連綿と継続しており,英国内の口蓋裂センターでは臨床活川も拡大している.また口腔の器質的疾患のみでなく,発達性あるいは神経疾患による構音障害など幅広い領域でEPGが取り入れられている.我国におけるEPG研究の成果を踏まえて,言語聴覚療法の広い分野で客観的・科学的手法としてEPGを取り入れていくことが望まれる.
  • Garidkhuu ARIUNTUUL, 古川 博雄, 上谷 美幸, 鈴木 聡, 松澤 哲子, 大林 修文, 吉田 和加, 夏目 長門
    2006 年31 巻3 号 p. 267-273
    発行日: 2006/10/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    中央アジアの国の一つであるモンゴル国では,口腔顔面裂の有病率に関する研究はこれまでにほとんどされてこなかった.そこで,モンゴル国における口唇・口蓋裂児の有病率を推定するため,可能な限りの記録を収集し,回顧的調査を実施した.モンゴル国での口唇・口蓋裂の有病率に関し,モンゴル国外に向けて報告された研究はこれまでに無く,この研究が初めてのものである.
    この調査では,1997年から2001年までの5年間に生まれた口唇・口蓋裂症例を対象とした.出生児における有病率は,ウランバートル市のモンゴル国立母子病院における,24,970名の出生児の記録を基に算出した.その結果24,970名中19名に口唇・口蓋裂が確認され,1,000名に0.76名,1314名に一人の割合であり,モンゴル国の本症有病率は,低いことが推定された.
    今回の報告は,今後モンゴル国の疫学研究を発展させていくための予備的なものであり,この国における疫学研究の現状についても述べた.モンゴル国の社会経済状況は,本症の大規模調査が行われている他の国々の状況と異なっており,本研究ではこれらの問題も考慮しながら本症の有病率について検討を行った.本研究の結果モンゴル国における本症の有病率が低いとの仮説を立てることが可能であったが,今後これを実証する最新の数値を確認するため,他の出産施設のデータを含む前向き調査(プロスペクティブ・スタディ)の必要性が示された.
  • 通常の訓練で改善が難しかった症例について
    山本 一郎, 井上 幸, 藤原 百合
    2006 年31 巻3 号 p. 274-284
    発行日: 2006/10/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    口蓋化構音や側音化構音が通常の訓練で治り難かった両側性唇顎口蓋裂術後症例に,8歳4カ月から約1年間,エレクトロパラトグラフィ(EPG)の簡易トレーニング装置を川いて家庭における視覚的フィードバック訓練を行った.使用装置はWinEPG システム(Articulate Instruments Ltd.)とそのPortableTraining Unit:PTUである.
    初回評価時,/t,ts/のEPGパターンは舌全体が歯茎部から硬口蓋にかけて広く接触していた./s/は聴覚的には摩擦音であったがEPGパターンを見ると歯茎部は完全に閉鎖しており,呼気は硬口蓋後方の臼歯部周辺から歯列に沿ってから流出していると推測された./∫,t∫/のEPGパターンは舌全体が口蓋に接触し呼気が正中から流出するのを妨げていた.
    初回評価後,およそ1カ月おきにWinEPGで記録と分析を行って具体的な訓練目標を示し,毎日白宅でPTUを用いて練習をすることを課した.また地域における言語訓練でもPTUを活用した.練習開始後13カ月で目標音の改善を達成し,PTUを用いた訓練は終了となった.
    3歳11カ月から4年以上,通常の構音訓練を続けても改善しにくかった舌運動の異常な習癖が,1年あまりの視覚的フィードバック訓練で改善したのは,訓練目標が具体的で練習効果が目に見えること,またPTUを自宅に持ち帰っての練習は,本人のみならず家族にも理解しやすく,双方のモチベーションが高まって自宅での反復練習を促したこと,によると思われる.
    言語聴覚士にとっても練習効果を客観的に測定できる利点がある.今後EPGは従来の言語聴覚療法に加えて新たな訓練・分析方法になりうることが示唆された.
  • 出生前情報提供の体制作り
    中新 美保子, 森口 隆彦, 岡 博昭, 佐藤 康守, 三村 邦子
    2006 年31 巻3 号 p. 285-292
    発行日: 2006/10/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    我々は,口唇裂口蓋裂の出生前告知を受けた妊婦が安心して出産を迎えるための治療側からの支援体制作りを目的として,実態調査を行った.
    調査対象は,同意の得られた出生前告知を受けた母親12名と告知した産科医6名であった.出生前告知を受けた妊婦に対する治療側からの支援体制の有無と治療側の支援として必要な事柄について一人30分~1時間程度の半構二成面接を行い,KJ法により分析した.
    治療側からの支援体制について「有り」と回答したのは,母親4名と産科医1名であった.「なし」は母親8名と産科医5名であった.
    母親が望む治療側の支援内容として,【医学的内容の説明】【療育についての説明】および【継続支援】を取り上げた.この3つの支援を実践するためには,「口唇裂口蓋裂の出生前情報提供」が必要であると考え,口唇裂口蓋裂専門外来医師と看護師を中心とした支援体制を提案した.
  • 骨内マーカーを用いて
    室伏 道仁, 岡藤 範正, 倉田 和之, 近藤 昭二, 杠 俊介, 栗原 三郎
    2006 年31 巻3 号 p. 293-301
    発行日: 2006/10/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    上顎骨の著しい劣成長を伴う両側性口唇口蓋裂二症例において,REDシステムによる上顎骨延長術を施術した際の,上顎骨および上顎骨に対する歯の移動様相を明確にするために検討を行ったので報告する.
    症例1は手術時年齢11歳6か月の女子.症例2は手術時年齢16歳8か月の女子.両症例とも顎裂部自家腸骨細片移植術を行った.また,症例2は延長終了22日後に下顎後退術を併せて施術した.骨延長術はREDシステムを応用し,延長装置を上顎歯列に固定した後,Le Fort I型骨切り術を施術し,朝夕0.5mmずつ1.Omm/日の割合で延長を行った.上顎骨と歯の移動様相を正確に評価するため,Le Fort I型骨切り術中にインプラントピンを骨切り線上下に計4本埋入し,骨内マーカーとした.術前から延長終了後2年までの側面セファロトレース上で検討を行った.
    延長終了時,上顎骨の延長量は症例1で前方11.2mm,下方1.3mm,症例2で前方7.5mm,下方2.6mmであった.延長後変化量は,症例1で-1.8mm(-16.0%)認められたが,症例2では,延長術後も+1.Omm(+13.3%)の前方移動が認められた.術中の歯の移動は両症例とも,水平方向より垂直方向への移動が多く認められた.
  • 平川 崇, 山本 康, 長西 裕樹, 牧野 太郎, 小林 眞司, 鳥飼 勝行
    2006 年31 巻3 号 p. 302-312
    発行日: 2006/10/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    神奈川県立こども医療センター形成外科を受診した片側唇顎裂患者5名の術前顎矯正による歯槽形態変化について報告する.
    術前顎矯正には顎裂部を埋める加工を施した上顎歯槽模型上で製作した硬性レジン製の口蓋床型装置を用いた.床装置の安定には義歯安定剤あるいはcheek strapを用いた.治療期間は平均で生後22日から102日の80日間であった.
    治療全例で顎裂部の狭小化が観察された.両セグメント断端の上方(頭側)偏位は改善された.メジャーセグメントは解剖学的形態に近い弓型に誘導され,マイナーセグメント裂側断端は唇側に誘導されていた.
    治療を行わなかった一例においては変形が維持され顎裂幅は減少していなかった.
    本法により初回口唇形成手術時GPP実施に有利な歯槽形態が獲得されることが示された.
  • 齊藤 シオン, 伊藤 亜希, 木住野 義信, 松崎 英雄, 田中 潤一, 高野 伸夫
    2006 年31 巻3 号 p. 313-318
    発行日: 2006/10/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    今回,私たちは強度に萎縮した中間顎により広い顎裂を有した両側唇顎口蓋裂患者を治療する機会を得たので報告する.患者は33歳の女性で咀囎障害および鼻部の悪臭を主訴に当科来院した.そこで,まず最初に遊離自家腸骨移植により上顎骨を形成し,ついで口腔前庭拡張術の後,歯科インプラントによる咬合の改善を行った.その結果,口唇鼻部の形態および咀囎機能は満足いくものとなった.
  • 代田 達夫, 宮崎 芳和, 歌門 美枝, 鈴木 規子, 新谷 悟, 愼 宏太郎, 中村 篤, 三次 正春
    2006 年31 巻3 号 p. 319-328
    発行日: 2006/10/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    上顎に著しい劣成長を来した口唇口蓋裂では,軟口蓋部に形成された瘢痕組織によって上顎の前方移動が制限を受ける.そこで従来の骨切り術に代わる有効な治療法として,上顎に対する骨延長術が適用されつつある.今回われわれは上下顎の劣成長を伴った両側性口唇口蓋裂に対し,上下顎同時骨延長術を行い良好な結果が得られたので報告する.
    上顎に対してはLe Fort 1型骨切り術を行ってREDシステム骨延長装置を装着した.一方下顎骨に対しては,左側は下顎骨体部骨切り術,右側は下顎枝矢状分割術を行い,左側のみに創内型下顎骨延長器を装着した.術後3日目より1日あたり1-2mmの速度で上顎の骨延長を行い約15mmの骨延長を行った.次いで顎間固定を行った後,下顎左側近位骨片を後方に向けて1日1mmの速度で約10mm骨延長した.
    その結果,中顔面の陥凹感は改善され,ほぼ適正な上下顎の被蓋関係が獲得された.また,上顎の前方移動による鼻咽腔閉鎖機能に対する影響も軽微であった.
  • 黒澤 智子, 藤澤 裕一, 山下 昌信, 岸邊 美幸, 川上 重彦
    2006 年31 巻3 号 p. 329-333
    発行日: 2006/10/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    Mobius症候群は,両側性顔面神経麻輝を来す先天性疾患であるが,障害部位やその程度により様々な症状を合併することがある.今回我々は,39歳女性のMobius症候群に伴う先天性鼻咽腔閉鎖機i能不全症を経験し,同症例にlateral pharyngoplastyを施行した.術後7カ月現在,ファイバーで軟口蓋挙上が確認され,発語は術前に比し明瞭化している.
    本法は,耳管咽頭筋を用いた咽頭形成術であU,得られる効果として1)解剖学的構造の改善,2)機能的改善が挙げられる.通常,耳管咽頭筋が完全麻痺の場合は後者を望めないことが多い.しかし本症例の場合,slingを形成した粘膜筋肉弁の筋収縮運動がみられた.これは弱いながらも同筋の機能が残存していたためと推測される.本法は解剖学的構造の改善のみならず,耳管咽頭筋の機能が残存していると思われる症例では,機能的な改善も図ることができる,有用な方法であると考えられる.
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