1979 年 4 巻 1 号 p. 59-64
唇裂口蓋裂患者は一般正常児に比較して,歯離虫罹患性が高く,趨再蝕は重症であり,そのために歯列や顎の正常な発育が妨げられ,将来の補綴処置や矯正治療に際して甚大な影響があるといわれている.しかし,欧米においては,唇裂口蓋裂患児の騙蝕罹患率は正常児と変わらないといわれており1),なかには,Stephen,K,W,2)のように十分な歯離虫抑制処置を施せば歯離虫の発現は正常児よりもはるかに少なくなるという報告もある.
私たちは,昭和50年9月から昭和53年4月までの2年6ケ月間に兵庫県立こども病院を訪れた唇裂口蓋裂患者258名に対して口腔衛生指導を行い,初診時と活動開始後2年6カ月経過した昭和53年3月の時点における爾蝕罹患状態を比較検討した結果,以下の結論を得た.
唇裂口蓋裂患者は無歯期のうちに,親に簡単な口腔衛生の知識を与えておくと,鯖蝕罹患者率は正常児とほぼ同程度になり,これらの患児に口腔衛生指導を継続することによって歯爵蝕罹患者率, def歯率ともに減少することが判った.このため,唇裂口蓋裂患児にできるだけ早期から口腔衛生指導を開始し,継続することが,騙蝕予防の上で不可欠であると考えられる.