抄録
失語は脳損傷による言語の障害であり,あくまでも脳とその損傷を基礎に理解するのが基本であろう.この考えをもっともよく表現するのが「Wernicke-Lichtheimの図式」である.これは今でも失語論の中心位置を占める.しかし失語の現象のすべてが脳とその損傷から直接に理解できるとは限らない.そういうことをAlajouanineの「未分化ジャルゴン」の概念とその自験症例を通じて考えてみた.とくに近年健常小児の「ジャルゴン型の言語発達」の提唱を受け,この考え方が臨床例にもよく当てはまるように思われた.「脳とこころ」の問題は人類最大の難問である.失語は,これまでもまた今後も,この難問の重要な取りかかり点であり続けるであろう.