臨床神経学
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短報
長期間のコルヒチンの投与により回復が障害されたコルヒチンミオパチーの1例
髙嶋 浩嗣細井 泰志武内 智康渡邊 一樹杉本 昌宏西野 一三宮嶋 裕明
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2021 年 61 巻 1 号 p. 47-50

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要旨

症例は69歳女性.糖尿病による慢性腎不全と原因不明の心囊水貯留を指摘され,心囊水貯留に対してコルヒチンが開始された.開始後2か月より四肢筋力低下が出現し,緩徐に進行して1年半後に寝たきりの状態となった.コルヒチンの中止のみで筋力は軽快し,コルヒチンミオパチーと診断したが,コルヒチン中止後も四肢筋力低下が残存した.典型的なコルヒチンミオパチーは早期に改善するが,コルヒチンが長期に使用されたため筋力低下が残存した.これは筋量が少ないためCKが高値を取りにくかったこと,Crによる推算糸球体濾過量が実際の腎機能低下を反映せずコルヒチンミオパチーへのリスク認識が遅れたことによると考えられた.

Abstract

A 69-year-old woman was admitted to our hospital because of limb weakness. She was diagnosed to have chronic renal failure due to diabetes mellitus and had suffered from pericardial effusion at 67 years of age. She started taking colchicine 18 months before admission and thereafter gradually developed muscle weakness in her limbs and had become bedridden at the time of admission. The withdrawal of colchicine improved her limb weakness, and therefore we diagnosed her to have colchicine myopathy. Her muscle strength did not completely recover even after six months from cessation of colchicine. It was suggested that renal failure and muscle disuse had prevented the full recovery of her muscles in addition to the long-term use of colchicine. Typical colchicine myopathy improves rapidly, but the long-term use of colchicine is considered to cause muscle weakness. Although the CK level was elevated, the elevated CK and myopathy had been overlooked because the CK baseline was low due to the patient’s small amount of muscle mass. Moreover, the estimated GFR was recorded to be higher than her actual renal function due to her small amount of muscle mass, therefore the risk of colchicine myopathy in this case remained unrecognized.

はじめに

コルヒチンは痛風の治療薬として長年使用されていたが,近年では副作用のために使用されることは少ない.代表的な副作用は消化器症状だが,筋障害や末梢神経障害をきたすことも知られている.今回われわれはコルヒチンによりミオパチーを呈した症例を報告する.

症例

患者:69歳,女性

主訴:顔面,四肢の筋力低下

既往歴:無症候性の右前頭葉,頭頂葉の脳梗塞,糖尿病に対しインスリン療法中.

家族歴:類症なし.

生活歴:喫煙なし,飲酒なし

現病歴:入院18か月前心不全と胸水,心囊水貯留を指摘され,A病院へ入院した.糖尿病とそれによる3期の腎症を指摘され,心不全と胸水は溢水と判断された.心囊水のADAは正常,異形細胞も検出されず,心囊水は尿毒症によるものと判断された.体液管理で心不全と胸水は改善したが,心囊水は残存しコルヒチン1.0 mg/日が開始された.入院16か月前に階段を上るときに手すりが必要になった.入院11か月前には杖歩行,入院5か月前には介助歩行,入院1か月前には寝たきりとなり廃用としてB病院でのリハビリを開始した.リハビリ開始後も1か月の経過で筋力低下は進行し,両下肢の異常感覚も出現した.当院への入院5日前にコルヒチンが中止され,精査目的で当院へ入院した.経過中のCKの変化をFig. 1に示す.

Fig. 1 The course of serum CK and clinical symptoms.

The serum CK level increase one month after the start of colchicine, and the patient gradually developed a gait disturbance for a period of eighteen months. After the cessation of colchicine, the serum CK level immediately decreased and the symptoms improved within six months.

入院時現症:身長153 cm,体重37 kg,BMI 15.8.一般身体所見に明らかな異常は認めない.

入院時神経学的所見:意識は清明,軽度の顔面筋筋力低下,頸部屈曲にMMT2,四肢に左右対称性の近位筋MMT2,遠位筋MMT4の筋力低下を認めた.痛覚および位置覚は正常であったが,手袋靴下型の異常感覚を認め,振動覚は両上下肢で低下していた.四肢の腱反射は消失し,病的反射を認めなかった.

検査所見:血液生化学検査ではHbA1cは5.7%,CKは28 U/l,アルドラーゼは4.1 IU/l,ミオグロビンは113.5 ng/ml(正常値 <106.0)であった.甲状腺機能は正常であり,CEA,AFP,CA19-9等の腫瘍マーカーは陰性であった.Crは0.94 mg/dlで,これから算定された推算糸球体濾過量(eGFR)は34.1 ml/minだったが,シスタチンCは2.77 mg/l(正常値0.56~0.87)でシスタチンCを用いたeGFRは17.9 ml/min/1.73 m2で蓄尿によるクレアチニンクリアランス(CCr)は11.2 ml/分であった.抗核抗体,抗ARS抗体,抗ミトコンドリアM2抗体,抗SRP抗体,抗HMGCR抗体はいずれも陰性だった.胸部レントゲンでは心胸郭比 63.6%,肋骨横隔膜角は両側とも鈍だった.心電図でI度房室ブロックと左室肥大所見を認め,呼吸機能検査で%VC 48.4%だった.体幹部のCT,Gaシンチグラフィで悪性腫瘍を認めなかった.上下肢で筋MRIを施行し軽度の筋萎縮を認めたが筋の異常信号は認めなかった.末梢神経伝導検査でCMAP,SNAPは四肢で低下し,腓腹神経は導出不能であった.上腕二頭筋と大腿直筋の針筋電図では,安静時電位は認めず,随意収縮では早期動員を認めた.

臨床経過:針筋電図所見よりミオパチーを疑い,左上腕二頭筋より筋生検を施行した.組織化学染色では,比較的強い筋線維の大小不同に加えて,再生線維が散在していた.壊死線維なく,炎症細胞浸潤も認めなかった.顕著なタイプ2線維萎縮を認めた.群萎縮や筋線維タイプ群化は明らかではなかった.自己貪食空胞を認めなかった(Fig. 2).免疫染色でも,p62の明らかな凝集所見は認めなかった.

Fig. 2 Muscle biopsy.

(A) On hematoxylin and eosin staining, a marked variation in the fiber size was observed. No necrotic fibers were observed, but some scattered regenerating fibers were seen. No mononuclear cell infiltration was identified. (B) On mGT staining, no autophagic vacuoles were observed. The bar size is 100 μm. (C) On ATPase staining at pH 10.6, marked type 2 fiber atrophy was seen.

炎症性筋疾患は否定的であり,CKがコルヒチン中止後122 U/lから28 U/lへ減少しており,コルヒチンによる薬剤性ミオパチーを考えた.入院2週後に四肢筋力低下は改善傾向となり,入院3週後には介助歩行が可能となり,異常感覚も消失した.入院8週後,介助で立位をとることができ,%VCも78.2%まで改善した.入院24週後には手すりの無い椅子から自力で立ち上がれるようになったが,四肢近位筋にはMMT4の筋力低下が残った.コルヒチン中止後に心囊水は増加しなかった.

考察

コルヒチンは微小管の重合を阻害するため,自己貪食空胞の輸送を妨げる.自己貪食空胞によりリソソーム膜が障害を受けて蛋白分解酵素が放出されることでミオパチーを惹起するとされ,この自己貪食空胞がコルヒチンミオパチーの特徴的な筋病理所見である1.本症例では,コルヒチン中止後に筋生検をするまで時間が経過していたため自己貪食空胞を認めなかった可能性がある.コルヒチン中止より9日後の筋生検で自己貪食空胞を認めた報告があるが2,本症例では既報よりもさらに間隔があいたコルヒチン中止21日後に筋生検を施行した.通常,コルヒチンミオパチーは早期の改善を示す疾患であり,本例ではコルヒチン中止により自己貪食空胞が速やかに消失し,筋病理所見で再生線維のみを認めた可能性がある.

コルヒチン内服者の約2%はCKの上昇を伴うミオパチーを発症する.また腎障害はミオパチー発症の主要なリスクである3.コルヒチン内服開始からミオパチー発症までの期間は4日~11年(平均40か月)で,多くの場合中止後速やかにCKは低下し,1~9週で筋力は正常化する4.本症例ではコルヒチン中止から半年経過した時点で筋力が完全には改善していない点が非典型的であった.ミオパチー発症後もコルヒチンが長期間継続されたこと,廃用,慢性腎不全,糖尿病が複合的に作用し筋症状の改善を阻害した可能性がある.コルヒチンミオパチーでは筋線維の壊死は軽微とされるが,本症例では再生線維を認めることから症状進行時には筋線維の壊死が存在したと考えられ,これも改善の遅れを反映している.

CKは筋量に影響されるため5,筋量が少なくなりやすい糖尿病6を有する本症例ではコルヒチン内服前のCKが正常下限に近く,コルヒチン開始より2か月の時点でCKが高値となったが,それ以外ではミオパチーや廃用も合併し基準値内で推移した.また,筋量が少ないためCrも低くなり,eGFRが実際の腎機能より高く算定されコルヒチンミオパチーのリスクが認識されなかった.近年,虚血性心疾患の再発予防にコルヒチンが有効と報告されたが7,心血管イベントはインスリン抵抗性と関連し糖尿病患者に合併しやすい.虚血性心疾患患者にコルヒチンが使用されるとミオパチーの危険性が認識されず,ミオパチーを発症しても見過ごされる危険がある.筋量が少ないと予想される患者では筋量に依存せず腎機能を評価できるシスタチンCを用いて副作用のリスクを評価し,CKの経時的な推移を評価することでミオパチーの発症を早期に診断するべきである.

Acknowledgments

謝辞:本研究の一部は,国立精神・神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費(29-4, 2-5)の支援を受けたものである.

Notes

本報告の要旨は,第150回日本神経学会東海・北陸地方会で発表し,会長推薦演題に選ばれた.

※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

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