笠原・越智(2006)は,声の処理(個人同定に関する音響情報の処理)と発話内容の処理は異なる心理的プロセスを経るという仮説について検討した。しかしこの実験では,声の再認成績に天井効果が出てしまった。そこで本実験では,別のターゲットを用い,更なる検討を行った。実験参加者に声(または内容)に注目するように教示し,ターゲットの声を呈示した。その後,声の同定テストと内容再認テストを実施した。その結果,声の同定テストでは両条件ともにチャンスレベル以上の成績を示し,内容再認テストでは内容注目条件のほうが有意に成績がよいことが示された。本実験結果から,個人同定に関する音響情報の処理には,意識せずとも一定量の処理資源が自動的に配分され,他方発話内容の処理は,状況によって処理資源を増減されて配分される可能性が考えられる。