抄録
自己に関連するような視点で出来事を想起するとき,保持されている記憶にどのような影響を与えるのか検討した.被験者は,高校時代の主人公と生活態度に問題のある友達の間におきる出来事の物語を熟読した後,物語の主人公を被験者自身に置き換えて想起する「主観的想起群」と,物語の登場人物と被験者自身を乖離させて想起する「客観的想起群」のどちらかに分けられ,それぞれの視点から物語を想起した.1週間後,物語の内容に関する再認課題を行った.実験の結果,主観的想起群の被験者は,物語の主人公に関わる情報を正確に認識することができた.しかし,友人に関する情報については記憶変容が認められた.客観的想起群では,主人公の情報よりも友人の情報を正確に生成した.また,感情的情報については,どちらの視点においても,快情報・中性情報は正確に保持され,不快情報は変容していた.