単純接触効果の生起メカニズムに関して、今日最も広く支持されているのが知覚的流暢性誤帰属説である。これは、接触に起因する流暢性が過去経験に正しく帰属されず対象への評価に誤って帰属されることで単純接触効果が生じると考えるものである。しかし、この仮説は顕在記憶が単純接触効果を抑制することを予測する一方で、多くの実証データは単純接触効果が顕在記憶から独立であることを示している。この不一致を考える上で、生駒(2005)は単純接触効果を「顕在記憶と排反しない記憶誤帰属」(原田, 1999)として理解する視点を提案している。ただし、そこではなぜ単純接触効果が誤有名性効果にみられるような排反を示さないのかは明らかにされていない。そこで、これまでの記憶誤帰属の知見を整理し、顕在記憶と排反するかどうかを規定する要因を見いだし、単純接触効果が顕在記憶と排反しない記憶誤帰属であることについて議論を進めたい。