抄録
本研究は文の読解において,音韻情報が文中の語順の保持に果たす役割を検討したものである。実験参加者は7文節からなる刺激文を読み,その文に関する質問文と再認課題に答えることを求められた。刺激文は動作主,被動作主,それぞれに対する修飾語を含むものとした。質問文は動作主を問うものとある内容語に付随する修飾語を問うものとした。再認課題においては内容語と助詞の語順を操作した4種類の再認文を作成した。実験1においては刺激文を黙読する条件と,音韻変換を阻害する構音抑制を行う条件を,実験2においては構音抑制の代わりに,音韻変換を阻害しないが注意資源を奪うタッピング条件を設定した。2つの実験の結果,文理解において音韻情報は内容語に付随する修飾語という局所的な情報の保持に貢献していること,また,内容語の語順よりも,それらに付随する助詞の保持を助け,正確な文の命題表象の構築を促進する役割を担うことが考えられた。