近年、即興演奏による感情コミュニケーションの研究が盛んになっているが、演奏者側の要因についての検討はあまりされていない。そこで本研究では、即興演奏時における演奏者の気分がどのように影響しているかを検討した。大学生16名に、悲しみまたは安らぎを電子ドラムの即興演奏で表現したものを提示し、どちらを演奏した者であるかを判断させた。実験の結果、全体の判断成績でみると、表現された感情の判別は困難であり、意図的な感情コミュニケーションの成立は認められなかった。しかし、演奏時における演奏者の気分に基づき分けて分析すると、選択バイアスの方向が気分によって反転することが明らかになった。これは、演奏者の気分に関してのコミュニケーションが、演奏者・聴取者の双方とも意図していない形で発生していることを示唆している。