抄録
本研究では,エピソード記憶はどのような過程を経て思い出されるのかという問題について検討した。記憶検索に関する先行研究では,手がかりと連合した記憶(連合記憶)のみが活性化された後,活性化された記憶が一つずつ想起されていくと広く考えられている。我々は新たな実験手法を開発した上で,この考えを再検証した。実験の結果,ターゲットを検索する時点で活性値が高い状態にあれば,手がかりと連合していない記憶(非連合記憶)であっても活性化されることが示された。また,活性化された記憶が全て想起されうるわけではなく,非連合記憶は活性化されても想起には至らないことも示された。以上の結果は,エピソード記憶の検索過程に関する従来の考えを大きく修正するだけでなく,フラッシュバックの生起機序や海馬の機能などを理解する上で重要な枠組みを提供する。