抄録
本研究は,視覚的注意における表情と視線の相互作用の時間特性について検討した.仮説は,恐怖表情の視線手がかり効果(手がかりとなる視線方向とターゲットの出現位置が,一致する条件の方が不一致の条件よりも反応時間が速くなる促進効果)が他の表情よりも大きくなり,その表情と視線の交互作用がごく初期の処理段階で生じるというものであった.実験は,Posner(1980)の手がかりパラダイムを修正した視線手がかり課題を用いて,手がかりの視線と表情変化(怒り,恐怖,幸福,中性)を同時に動的呈示し,ターゲットの位置判断を行うものであった.その結果仮説どおり,処理の初期段階において表情と視線の相互作用がみられ,恐怖表情の視線手がかり効果のみが他の表情よりも大きかった.一方で,処理の後期段階では視線手がかり効果および視線と表情の相互作用の減少がみられた.これらの結果から,視覚的注意における視線と表情の相互作用は初期段階で生じることが示された.