抄録
巨大地震は様々な心身の不調をもたらすが,特に繰り返す余震に関連してめまいの訴えが増加する.東北地方太平洋沖地震の際も本震から数か月後に,めまい患者の増加が報告されている.めまいの原因の多くは平衡感覚機能異常だが,心理的ストレスがめまいの原因となるケースも多い.本研究は東北地方太平洋沖地震発生約4カ月後に,余震を多く経験した集団(地震群)とほとんど経験しなかった集団(統制群)の平衡感覚機能と心理的ストレスを調査した.心理的ストレスに群間差はなかったが,地震群の平衡感覚は閉眼時に限り有意に悪化しており,心理的ストレスと平衡感覚に有意な正の相関が認められた.さらに平衡感覚のパワースペクトル解析では,内耳機能の障害を反映する低周波帯域のパワーが地震群で有意に増大していた.これらの結果は,繰り返す余震による物理的作用と,余震に関連付けられたストレス反応が内耳機能異常を惹き起こす可能性を示唆する.