抄録
両義文の聴覚処理においては,ポーズやピッチ変化等の韻律情報がその両義性の解消に寄与するが,読みにおいてもそれらの韻律情報がカンマによって内的に喚起され,文処理に影響することが指摘されている。本研究では,主に可能な2通りの解釈の選好性に関して意味的なバイアスを有する両義文に,そのような意味的バイアスと一致または不一致の位置に挿入されるカンマが,文の読み時間に与える影響を検討した。実験の結果から,意味的バイアスと一致する位置に挿入されるカンマによって,注目された領域における読み時間の減少が確認されたことから,文の両義性を解消するために十分な意味的情報が存在する場合でも,カンマによって喚起される潜在的な韻律情報が文処理に利用されていることが示唆された。