抄録
近年,特定の表情(順応刺激)を見続けると,後続の同じカテゴリの表情(テスト刺激)がわかりづらくなるという,表情に対する順応という現象が示された。この順応効果の生起には順応刺激の表情の表出強度がクリティカルな要因であることが示唆されているが,順応刺激とテスト刺激が同一人物のみで起こる現象なのか表情一般に見られる現象なのかは未検討のままである。この点を明らかにするために,本実験では,怒り・幸福・恐怖・悲しみの4つの表情について,順応刺激とテスト刺激に異なる人物を用い,先行して提示する順応刺激に用いる表情の表出強度を変化させ,後続のテスト刺激に対する正答率の変化を調べた。その結果,順応刺激の表出強度が強くなるほど,より強い順応が起こるという,順応刺激とテスト刺激が同一人物の実験と同じ結果が得られ,表情の順応効果の生起における順応刺激の表出強度の重要性が示された。