抄録
思い出そうとする意図なしに意識に上ってくる個人的経験である不随意記憶について,その生起頻度と日常記憶に関するメタ認知との関係を検討した。不随意記憶の生起手がかりをある程度統制し,かつ不随意記憶の生起を的確に把握することを意図したフィールドインタビュー法によって得られた不随意記憶の記録(神谷, 2011)の一部を分析対象とした。これらの不随意記憶を,自己機能,他者機能,方向づけ機能の3種類に分類した。不随意記憶数とメタ認知能力との間には有意な正の相関が認められた。つまり,日常的な記憶行動に問題があると認知しているほど不随意記憶の生起頻度が高かった。この関係は,不随意記憶を機能別に分析した場合にも当てはまった。不随意記憶が自動的に引き出されることにより,日常の記憶行動を補っていると考えることができる。