抄録
生体が物体の描画を認知処理する際には,視覚的な典型的大きさ(canonical visual size)という最も最適な面積比率があることが示唆されている。この最適な面積比率は,実世界における物体の大きさに比例するとされている。先行研究では,背景が描写されている写真などの画像の認知処理における視覚的な典型的大きさの影響は検討されていない。写真のように背景が描写されている画像を想起する際,実際よりも広い範囲の見えを想起する現象は境界拡張として知られている。そこで本研究では,視覚シンボルと写真という異なる呈示媒体において,想起される画像の面積比率に視覚的な典型的大きさがどのように影響するのかを検討した。視覚シンボルとは異なり,写真では境界拡張が生起し,視覚的な典型的大きさはその程度を規定する可能性が示された。これは,境界拡張が撮影距離のエラーではないことを示唆していた。