展望的記憶とは,次回Aに会ったらお礼を言うといった,未来の特定の時点で特定の行動を行う意図の記憶である。従来の展望的記憶のモデルとして,意図した行為を実行するきっかけである事象の記憶表象(時機表象)と,行為の記憶表象とそれらの間の連合を仮定し,両表象と連合の活性化を以て展望的記憶の想起とみなすというものがある。この2つの表象に「するべきことが存在する」ことに関する記憶である意図存在表象を加えた3表象モデル(森田,2005)が提案された。本研究では意図存在表象の存在を検証するために,時機表象と意図存在表象との連合強度を操作した実験を行った。モデルによると,連合が強い場合には展望的記憶の想起可能性が高くなることが予測されるが,実験の結果に連合強度の影響は見られなかった。展望的記憶の反応を行うために,別の反応の抑制で必要であったことが,予測された現象が見られなかった原因である可能性が示唆された。