抄録
一般に,言語理解に関わる認知情報処理と,運動実行に関わる認知情報処理は,独立していると捉えられている。しかし近年,両者にはオーバーラップする処理が存在することが明らかとなった(運動-言語連関)。これらの連関の一翼を担う運動実行系には,身体スキーマの関与が欠かせない。このことから,運動-言語連関にも身体スキーマの活動が関与するかもしれない。仮にこれが正しければ,身体の一部(たとえば腕)を拘束した状況では,腕に関わる言語の理解が阻害されるといった影響が予想される。本研究ではこうした考え方の妥当性を検証するための実験を行った。 物体と動詞の組みあわせが適合するかどうかの判断課題を行った結果,上肢位置が拘束位にある時は通常位にある時よりも有意に反応時間が遅延した。これは身体拘束により動きに関する言葉の理解が干渉を受けることが示唆され,言語情報処理過程の一部は身体化されていることが推察された。